ピヨ鳥とピヨ猫の声楽ゼミ

ベルティングは1種類じゃないピヨ
ヘビー/ブラッシー/リンギー/ネイザル/スピーチライクを測ってみた

原論文:Johan Sundberg, Margareta Thalén, Lisa Popeil “Substyles of Belting: Phonatory and Resonatory Characteristics” (2012)

ピヨ鳥
ピヨ鳥
声楽音響にくわしい先生。
やさしく教えるピヨ。
ピヨ猫
ピヨ猫
お笑い好きの生徒。
ボケ担当ニャ。
Johan Sundberg, Margareta Thalén, Lisa Popeil, “Substyles of Belting: Phonatory and Resonatory Characteristics,” Journal of Voice, Vol. 26, No. 1, pp. 44–50 (2012). doi:10.1016/j.jvoice.2010.10.007 © 2012 The Voice Foundation.
🐤 この対話は、ピヨ鳥がこの論文だけを見て作った要約・やさしい訳だピヨ。図は原PDFから切り出して引用(創作なし)ピヨ。
ピヨ鳥の約束:ここで話すことは全部この論文(p.44–50)が出どころピヨ。資料に無いことを聞かれたら、作らずに「ごめんピヨ、資料に見当たらないピヨ」と正直に言うピヨ。
🎤 0. ベルトは1種類じゃない
ピヨ猫

ピヨ鳥せんせ〜!ミュージカルの「ベルティング」って、あのガツンと張り上げるやつでしょ? それが論文になるってことは、何を調べたのニャ?

ピヨ鳥

いい入り口だピヨ!この論文のキモは、ベルティングをひとかたまりにしないところピヨ。ミュージカルの現場では、ベルトが5つのサブスタイルに枝分かれしていると考えられているピヨ——ヘビー(heavy)ブラッシー(brassy)リンギー(ringy)ネイザル(nasal)スピーチライク(speechlike)。それにクラシック唱法を比較用に加えて、全部で6つを測ったピヨ。

“This investigation attempts to describe phonation and resonance characteristics of different substyles of belting (heavy, brassy, ringy, nasal, and speechlike) and the classical style.”→ この研究は、ベルティングのいろいろなサブスタイル(ヘビー、ブラッシー、リンギー、ネイザル、スピーチライク)とクラシック様式について、発声(音源)共鳴の特徴を書き出そうとしたものピヨ。p.44 Summary

ここで「発声(phonation)」は声帯まわり=音源の話、「共鳴(resonance)」は声道の形=フォルマントの話ピヨ。この2階建てで見るのが今日の地図ピヨ。

ピヨ猫

で、結論から言うとどっちが効いてたの? 名前が5つもあるってことは、口の形が5通りあるってこと?

ピヨ鳥

それがおもしろいところピヨ。答えはだったピヨ。フォルマント(声道側)はサブスタイル同士をあまり分けてくれなくて、はっきり分かれたのは音源側だったピヨ。

“Thus, the differences between the belting substyles mainly concerned the voice source.”→ つまり、ベルティングのサブスタイル同士の違いは、主として音源(声帯の鳴らし方)にあったピヨ。p.44 Summary

逆に、ベルト全体とクラシックを分けたのは第1フォルマント(F1)だったピヨ。この2本立てを、順番にほどいていくピヨ!

🌳 1. 全体像マップ
ピヨ猫

用語が一気に増えそうな予感…。先に地図がほしいニャ。ロジックツリーってやつ、あるの?

ピヨ鳥

もちろん用意したピヨ。枝分かれのなかま分けピヨ。上が大ざっぱ、下がこまかいピヨ。チップを押すと、その用語を話すシーンに飛べるピヨ。

  • 🎭 A. 測った6つのスタイル

    1人の歌手が歌い分けた「聞き分けの対象」。

    • ベルティング0. ベルトは1種類じゃないポップ・ロック・R&B・ジャズ・カントリー、そしてミュージカルで使われる、話し声的・叫び的な発声。
      • ヘビー(heavy)今回いちばん息の圧が高く、いちばん“詰まった”方向に振れたサブスタイル。
      • ブラッシー(brassy)閉鎖商が高く、H1-H2 が低い。スピーチライクと近い位置。
      • リンギー(ringy)圧はクラシックに近め。閉鎖商は中間くらい(約0.3)。
      • ネイザル(nasal)鼻音化のため逆フィルタ解析ができず、スペクトル(LTAS)でだけ登場。
      • スピーチライク(speechlike)圧は中くらい、閉鎖商は高い。多くの指標でブラッシーの近く。
    • クラシック(classical)比較用の基準。多くの指標でヘビーの正反対に位置した。
  • 🫁 B. 音源のものさし

    声帯がどう鳴っているかを数字にする道具。

    • 声門下圧(Psub)4. 息の圧と大きさ声帯の下にかかる息の圧力。ここでは /p/ を閉じた瞬間の口の中の圧で推定した。
    • フロー・グロトグラム5. 声帯の閉じぐあい逆フィルタで取り出した「声門を通る空気の流れ」の波形。ここから下の指標を出す。
      • 閉鎖商(Qclosed)1周期のうち声門が閉じている時間の割合。
      • MFDR流れが減る勢いの最大値。声道をどれだけ強く叩いているか=音量への音源の寄与。
      • NAQ正規化振幅商。知覚される「押し詰め感(pressedness)」と逆向きに対応する。
      • H1-H2音源スペクトルの第1倍音と第2倍音のレベル差。
  • 📣 C. 共鳴のものさし

    声道の形が音をどう色づけたか。

    • フォルマント(F1・F2…)7. フォルマント声道の共鳴。ベルトとクラシックを分けたのは F1 だった。
    • LTAS6. スペクトル長時間平均スペクトル。曲の一節ぜんぶを平均した音の色の分布。
    • 倍音(H1・H2…)基本周波数 f₀ の整数倍の成分。F1 が第2倍音に寄るかどうかが論点になった。

この3本の枝を持って歩けば迷子にならないピヨ!

🧪 2. どうやって測った?
ピヨ猫

5つのベルトを歌い分けられる人なんている? スタジオに5人集めたの?

ピヨ鳥

ここが大事なところピヨ。被験者はたった1人——共著者の L.P.(Lisa Popeil)先生ピヨ。ボイスコーチであり、プロのシンガーピヨ。

“The single subject of the study was coauthor L.P., who is a voice coach and professional singer. She performed examples of five substyles of belt commonly heard in musical theater: heavy, brassy, ringy, nasal, and speechlike, and also classical voice production for comparison.”→ 唯一の被験者は共著者の L.P.。ミュージカルでよく聞く5つのベルト・サブスタイル(ヘビー、ブラッシー、リンギー、ネイザル、スピーチライク)と、比較のためのクラシック発声を歌ったピヨ。p.45 METHOD

1人だけというのは弱点でもあるけれど、同じ楽器(=同じ声)で6スタイルを比べられるという強みでもあるピヨ。論文自身も「被験者が自分自身の対照群になる」と書いているピヨ。

ピヨ猫

歌った曲は? まさか「ドレミの歌」?

ピヨ鳥

ミュージカルの王道、『ジプシー』(1959/曲 Jule Styne・詞 Stephen Sondheim)の Everything’s Coming Up Roses の一節ピヨ。歌い方は3種類ピヨ。

  • 歌詞つきで2回
  • 歌詞を /pae/ という音節に置きかえて2回
  • F#4(370 Hz)で /pae/ を繰り返すディミヌエンド(だんだん弱く)

これを6スタイルぶん、ストックホルム大学言語学科の無響室で録ったピヨ。

ピヨ猫

なんで /pae/ なの? パエリアが食べたかった?

ピヨ鳥

ピヨピヨピヨヨヨヨ、おなかすいてるピヨ?😸 まじめな理由があるピヨ。/p/ で口を閉じている一瞬は、口の中と肺の中の圧がつながるピヨ。だからそのときの口の中の圧を測れば、声門下圧(声帯の下の息の圧)が推定できるピヨ。

“The oral pressure during the occlusion for the consonant /p/ was used as an estimate of subglottal pressure.”→ 子音 /p/ で口が閉じているあいだの口腔内圧を、声門下圧の推定値として使ったピヨ。p.45 METHOD

口の端にくわえた圧センサー、30 cm 先のマイク、それにエレクトログロトグラフ(EGG)——この3つを同時に録ったピヨ。EGG は声帯どうしの接触ぐあいを電気で見る装置ピヨ。

👂 3. 専門家8人に聞いてもらう
ピヨ猫

でもさ、本人が「これはリンギーです」って言っても、ほんとにリンギーに聞こえてるとは限らないよね?

ピヨ鳥

ピヨ猫、そこに気づくとはえらいピヨ! 研究チームも同じ心配をしたピヨ。だから測定の前に、そのスタイルの指導をしているプロの先生8人に音源を聞かせて、分類してもらったピヨ。同じ刺激を2回ずつ、ランダムな順で、全部で460秒ぶんピヨ。

しかも各サブスタイルのお手本(アンカー)も用意したピヨ。ヘビーは Lisa Kirk、ブラッシーは Ethel Merman、リンギーは Debbie Gravitte、ネイザルは Patti LuPone、スピーチライクは Idina Menzel、クラシックは Beverly Sills ピヨ。名前だけでも音が想像できるラインナップピヨ。

“Summarizing, the listening test showed that most of the stimuli were rather easy to classify and that in most cases, the classifications made by the expert listeners were in agreement with those of the singer.”→ まとめると、聞き取りテストでは大半の刺激は分類しやすく、たいていの場合、専門家の分類は歌い手の意図と一致していたピヨ。p.46 RESULT
ピヨ猫

「たいてい」ってことは、迷ったやつもあった?

ピヨ鳥

あったピヨ。8人のうち1人(listener 8)は一貫性が低かったので除外、残り7人は61〜100%の一貫性だったピヨ。当てやすかったのはクラシック・スピーチライク・ヘビー、当てにくかったのはリンギー・ネイザル・ブラッシーピヨ。とくにディミヌエンドの4音だけを切り出した刺激では、リンギーは過半数が意図と違う分類になったピヨ。

つまり「歌の中では聞き分けられるけれど、単音になると輪郭がぼやける」サブスタイルがあるということピヨ。ここは数字を読むときの心の準備ピヨ。

💨 4. 息の圧と声の大きさ(図3)
ピヨ猫

いよいよ数字ニャ。まず息の圧はどうだったの?

ピヨ鳥

いちばんわかりやすい結果が出たピヨ。ヘビーが最高圧、しかもばらつきも最大ピヨ。

“Heavy was produced with the highest pressures and also showed the greatest variation of pressure, as indicated by the high standard deviation in the song.”→ ヘビーはいちばん高い圧で歌われ、圧の変動もいちばん大きかった(歌の中での標準偏差が大きい)ピヨ。p.47 Voice source properties

左のグラフが声門下圧、右が音の大きさ(Leq)ピヨ。ヘビーが両方で頭ひとつ抜けているのが見えるピヨ。

声門下圧と等価音圧レベルをスタイル別に比べた棒グラフ
FIGURE 3. Psub and Leq averaged across tones for the different vocal styles in the /pae/ version of the song excerpt and, in the left graph, also for the diminuendo sequences.
🐤 左=声門下圧(cm H2O)、右=30 cm での等価音圧レベル(dB SPL)。どちらもヘビーが最も高く、クラシックがいちばん低い側だピヨ。 出典:Sundberg, Thalén & Popeil (2012), Figure 3, p.47. 原図を切り出して引用(改変なし)ピヨ。
ピヨ猫

ベルトってやっぱり「力技」なんだ。じゃあクラシックは?

ピヨ鳥

クラシックがいちばん低い側ピヨ。おもしろいのは、リンギーとブラッシーは圧が互いに近く、しかもリンギーはクラシックにかなり近いことピヨ。「ベルト=全部が高圧」ではないピヨ。

論文はこの高い圧の理由を、ベルトがモーダル・レジスター(実声)で出されることに結びつけているピヨ。声帯が厚いまま鳴るので、それを動かすには高い駆動圧が要る、という理屈ピヨ。

🚪 5. 声帯の閉じぐあい
ピヨ猫

音源のものさしが4つもあったよね。MFDR とか NAQ とか、正直こわい。

ピヨ鳥

だいじょうぶピヨ、意味だけ押さえれば読めるピヨ。逆フィルタで「声門を通る空気の流れの波」を取り出して、そこから4つの数字を出したピヨ。

  • Qclosed(閉鎖商)=1周期のうち閉じている時間の割合。大きいほどガッチリ閉じている。
  • H1-H2=音源の第1倍音と第2倍音の差。小さいほど「厚みのある鳴り」寄り。
  • NAQ=押し詰め感(pressedness)とに対応する数。小さいほど詰まって聞こえる。
  • MFDR=声道を叩く勢い。大きいほど音源が音量に効いている。

結果はきれいに両極が出たピヨ。

“Heavy produced extreme values both in Psub and the various glottogram parameters; MFDR and Qclosed were high, whereas H1-H2 and NAQ were low. Classical assumed the opposite extreme…”→ ヘビーは声門下圧でもグロトグラム各指標でも極端な値を示し、MFDR と閉鎖商が高く、H1-H2 と NAQ が低かったピヨ。クラシックはその正反対の極だったピヨ。p.47 Voice source properties
ピヨ猫

数字にすると、どのくらい違うの?

ピヨ鳥

閉鎖商がわかりやすいピヨ。

“…Qclosed, which was close to 0.5 in heavy and brassy and no more than 0.25 in classical. Ringy showed an intermediate Qclosed average of about 0.3.”→ 閉鎖商はヘビーとブラッシーで 0.5 近く、クラシックでは 0.25 以下。リンギーはその中間で平均 0.3 くらいだったピヨ。p.49 DISCUSSION

1周期の半分閉じているか、4分の1しか閉じていないか——同じ人の同じ声帯で、これだけ違う使い方をしているピヨ。クラシックの低い値はレジスターの効果かもしれない、と論文は書いているピヨ(この音域では、クラシックの女声は純粋なモーダル・レジスターをあまり使わない)。

ほかにも、スピーチライクは圧が中くらい・MFDR と H1-H2 と NAQ が低め・閉鎖商が高めで、NAQ 以外はブラッシーの近くにいたピヨ。パルス振幅(流れの山の高さ)だけは、スタイル間ではっきりした差が出なかったピヨ。

🌈 6. スペクトルで見る(図6)
ピヨ猫

耳で聞いた「色の違い」は、グラフに出るの?

ピヨ鳥

出るピヨ。曲の一節を平均したLTAS(長時間平均スペクトル)を見るピヨ。ここではネイザルも登場するピヨ(逆フィルタは無理でも、スペクトルなら見られるピヨ)。

6スタイルの長時間平均スペクトル曲線
FIGURE 6. LTAS curves of the different versions of the song excerpt.
🐤 横軸が周波数、縦軸がレベル。青いクラシックだけが 500〜3000 Hz で低く沈み、他のスタイルは 1000〜1700 Hz あたりで持ち上がっているピヨ。 出典:Sundberg, Thalén & Popeil (2012), Figure 6, p.48. 原図を切り出して引用(改変なし)ピヨ。
ピヨ鳥

読みどころを並べるピヨ。

“Classical stands out because of low levels between 500 and 3000 Hz, a marked peak at 1600 Hz and a comparatively high level between 3000 and 4000 Hz. Also nasal shows a peak near 1600 Hz. All other substyles show a marked minimum at 2500 Hz.”→ クラシックは 500〜3000 Hz が低く、1600 Hz にはっきりした山、3000〜4000 Hz は比較的高い、という点で際立っていたピヨ。ネイザルも 1600 Hz 付近に山を見せたピヨ。他のサブスタイルはみな 2500 Hz にはっきりした谷があったピヨ。p.48 Voice source properties

それから低い方もおもしろいピヨ。クラシックは 350 Hz 付近が最大——これは曲の平均 f₀(345 Hz)そのもの、つまり基音が強いということピヨ。ほかのスタイルは 750 Hz 付近、つまり平均 f₀ の2倍=第2倍音が強かったピヨ。ヘビー・リンギー・ブラッシーは 1000〜1700 Hz が高く、LTAS 全体で最も高いレベルになったピヨ。

ただし論文は正直に釘を刺しているピヨ:この例は約10秒しかなく、音域も(短い1音を除けば)短3度しかない、と。一節ぶんの平均だということは忘れないでピヨ。

📣 7. フォルマントはどうなの?(図7)
ピヨ猫

ベルトといえば「F1 を第2倍音に合わせる」って聞いたことある! それは出た?

ピヨ鳥

よく知ってるピヨ! それは Schutte と Miller のベルト定義に出てくる話ピヨ——「喉頭を上げて、開いた(F1 の高い)母音でF1 を第2倍音に合わせる必要がある音域、女声でおよそ G4–D5」という言い方ピヨ。Bourne と Garnier も「chesty belt では R1(=F1)が 2f₀ にチューニングされていた」と報告しているピヨ。

ところがこの研究では、その傾向は見えなかったピヨ。

“As shown in Figure 7, there was no tendency for F1 to be close to the second spectrum partial.”→ 図7 のとおり、F1 が第2倍音に近づくという傾向は見られなかったピヨ。p.49 DISCUSSION

F1 が第2倍音に近かったのは、たった2か所——great の母音(f₀ ≈ 343 Hz)と the の母音(f₀ ≈ 332 Hz)だけピヨ。むしろ gonn(a) では F1 が第3倍音のすぐそばにいたピヨ。

この食い違いは、そのまま Bourne & Garnier のピヨ版と読み比べると面白いピヨ。あちらは6人の歌手で「C5 まで系統的に R1 を 2f₀ に合わせていた」と報告しているピヨ——測り方も音域も違う2本を並べて考えるところが勉強どころピヨ。

歌詞の各音節ごとのフォルマント周波数をスタイル別に並べた図
FIGURE 7. Formant frequencies, derived from the inverse filter analysis of the various syllables of the lyrics of the song excerpt.
🐤 横軸は歌詞の音節(Things/look/swell…)、縦軸はフォルマント周波数。点線は低い方から3つの倍音ピヨ。いちばん下の帯(F1)で、青いクラシックだけが一段低いところを歩いているのが見どころピヨ。 出典:Sundberg, Thalén & Popeil (2012), Figure 7, p.49. 原図を切り出して引用(改変なし)ピヨ。
ピヨ猫

じゃあフォルマントは何も語らなかったの? 働けニャ。

ピヨ鳥

ちゃんと1つ語ったピヨ。ベルト全体 vs クラシックの線引きピヨ。

“We found no striking formant frequency differences between the styles except that classical had a consistently lower F1 in all vowels analyzed.”→ スタイル間で目立ったフォルマント差は見つからなかったピヨ。ただしクラシックだけは、分析したすべての母音で F1 が一貫して低かったピヨ。p.49 DISCUSSION

そして「ベルトの F1 が高い」ことの意味を、論文はこう説明しているピヨ。

“The higher F1 values in the belting substyles would reflect articulatory characteristics, such as a wider jaw opening, a narrower pharynx, and/or spread lips.”→ ベルティングのサブスタイルで F1 が高いのは、顎をより広く開ける・咽頭をより狭める・唇を横に引くといった調音の特徴を映しているのだろうピヨ。p.48 Voice source properties

つまりフォルマントは「ベルトかクラシックか」は教えてくれるけれど、「どのベルトか」は教えてくれなかったピヨ。

🎁 8. 違いは「音源」にあった
ピヨ猫

ここまでを一息でまとめて!

ピヨ鳥

いくピヨ。

  1. 聞き分けは成立していた——専門家パネルの分類は、おおむね歌い手の意図と一致したピヨ。
  2. 音源が主役——ヘビーとクラシックがほぼすべての指標で両極。ブラッシーとリンギーは圧が近く、スピーチライクはブラッシーの隣。
  3. 共鳴は脇役——サブスタイル間のフォルマント差は不規則。ただしクラシックだけ F1 が一貫して低い。
  4. だから、5つのベルトを分けているのは声帯の使い方(圧と閉じぐあい)だったピヨ。

指導のことばに直すなら、「ベルトの色を変えるのは口の形より息の圧と声帯の閉じ方」——ただしこの1人・この音域・この一節では、という但し書きつきピヨ。

ピヨ猫

その但し書き、どのくらい重い?

ピヨ鳥

けっこう重いピヨ。論文が自分から最初に言っているくらいピヨ。

“Our investigation has focused on one single subject, which calls into question the general validity of the findings.”→ 今回の研究は1人の被験者に絞ったので、結果がどこまで一般に当てはまるかには疑問が残るピヨ。p.49 DISCUSSION

もうひとつ、f₀ の範囲が短3度しかなかったことピヨ。音源を決める3つのつまみは「声門下圧・f₀・声門閉鎖」だけれど、今回は f₀ がほとんど動かなかったので、重要な要因として見えてこなかっただけかもしれないピヨ。だから著者たちは、次はこの3つを軸にした3次元グラフで声の使い方を描くのはどうか、と提案して締めているピヨ。

ちなみに、この論文が推測した「ベルトは顎を広く開け、咽頭を狭める」という調音像は、のちに Rudisch ほか(2025)のリアルタイムMRIが実際の画像で検証しているピヨ。顎の開きは当たり、咽頭のほうは逆の結果——という続きがあるピヨ。

📝 9. たしかめクイズ
ピヨ鳥

最後に3問だけ確かめるピヨ! 答えはこのページの中にあるピヨ。

Q1. この研究で、5つのベルト・サブスタイルどうしを主に分けていたのは「音源」と「共鳴」のどちら?
Q2. 声門下圧はどうやって測った?
Q3. クラシックだけが他と違っていた共鳴の指標は何?

ピヨ猫

ふむふむ…考えたニャ。答え合わせ!

💡 答えを見る

A1. 音源。フォルマント(共鳴)はサブスタイル間で不規則にしか違わず、閉鎖商・NAQ・H1-H2・MFDR・声門下圧といった音源の指標がスタイルを分けた(シーン0・5・8)。

A2. /p/ で口を閉じている瞬間の口の中の圧を、口の端にくわえた圧センサーで測り、それを声門下圧の推定値とした(シーン2)。

A3. 第1フォルマント(F1)。分析したすべての母音で、クラシックだけ F1 が一貫して低かった(シーン7)。

ピヨ鳥

全部言えたら立派ピヨ! この調子でいこうピヨ!

きょうのゼミ修了ピヨ!🎓 ベルトの5色を分けていたのは口の形より「息の圧と声帯の閉じぐあい」。フォルマント(F1)が引くのは、ベルトとクラシックのあいだの線——ただし被験者1人・短3度の一節での話ピヨ。

🧭 この論文はベルティング3部作の1本ピヨ。3本まとめて読み比べるページもあるピヨ。

📚 出典ピヨ

Johan Sundberg, Margareta Thalén, Lisa Popeil, “Substyles of Belting: Phonatory and Resonatory Characteristics,” Journal of Voice, Vol. 26, No. 1, pp. 44–50 (2012). doi:10.1016/j.jvoice.2010.10.007 / 初出発表:Annual Symposium, Care of the Professional Voice, Philadelphia, June 2009. 所属:KTH 王立工科大学 音声・音楽・聴覚学科(スウェーデン)ほか。

本ページで言及した先行研究(原論文の参照文献より):Popeil L. “Multiplicity of belting.” J Sing. 2007;64:77–80/Schutte HK, Miller DG. J Voice. 1988;7:142–150/Bourne T, Garnier M. Proceedings of the International Symposium on Music Acoustics, 2010/Lebowitz A, Baken R. J Voice. 2011;25:159–165/Henrich N, d’Alessandro C, Doval B, Castellengo M. J Acoust Soc Am. 2004;115:1321–1332.