ピヨ鳥とピヨ猫の声楽ゼミ
原論文:Denis Michael Rudisch, Kai Tobias Block, Matt Edwards, Aaron M. Johnson “Investigating Vocal Tract Configurations Across Different Belting Qualities in Female and Male Musical Theater Singers Using Real-Time Dynamic MRI” (2025)
ベルトの論文3本目。これも音を測るの? もう圧力とフォルマントはおなかいっぱいニャ。
今回はちがうピヨ。歌っている最中の声道の形を、動画で撮った研究ピヨ。リアルタイムMRIで、正中矢状断——つまり顔をまっぷたつにした断面——を撮り続けたピヨ。音から形を推定するのではなく、形そのものを見に行ったピヨ。
“To identify vocal tract configuration patterns in vocally healthy contemporary commercial music (CCM) singers during the production of five industry-typical vocal qualities, including various belting qualities and traditional/legit musical theater singing.”→ 声の健康な CCM(現代商業音楽)の歌い手が、業界で標準的な5つの声質——いろいろなベルトと、伝統的な legit のミュージカル唱法——を出すときの、声道の形のパターンを明らかにすることが目的ピヨ。抄録 Objectives
そして結論の見出しになるのがこれピヨ:ベルトの声道は「メガホン」ではなかったピヨ。
メガホン! 運動会で使うやつ! 声道が運動会してたの?
ピヨピヨピヨヨヨヨ😸 運動会はしてないピヨ。「ベルトの声道は、のどが狭くて口が広い=メガホン型」というこれまでの見立てがあったピヨ。その見立てが今回の画像と合わなかった、という話ピヨ。くわしくはシーン4でやるピヨ。
先に大事な断りをするピヨ。この論文は購読が要って、ピヨ鳥はまだ本文を読めていないピヨ。だからこのページは抄録だけで作ってあるピヨ。数値も図も出てこないのはそのためピヨ。
ベルトの名前がまた増えた気がする。整理して!
枝分かれのなかま分けピヨ。抄録に出てくる語だけで作ってあるピヨ。
🎭 A. 5つの声質
歌い手が名前で歌い分けた対象。
📐 B. 8つの計測項目
正中矢状断の画像から測った形の指標。
🧲 C. 方法まわりの語
どう撮って、どう分析したか。
枝がたった3本なのは、抄録に出てくる語しか使っていないからピヨ。本文が読めたら枝はもっと伸びるピヨ。
MRI の中で歌うって、けっこう大変じゃない? 何人が入ったの?
プロのミュージカル歌手7人(女性4人・男性3人)ピヨ。ここまでの2本が「女声だけ」だったのに対して、男声も入っているのが今回の新しいところピヨ。
“Seven professional musical theater singers (four females, three males) performed arpeggiated patterns using five different vocal qualities: traditional/legit, neutral belt, brassy belt, warm belt, and rock belt. Real-time magnetic resonance imaging captured midsagittal vocal tract configurations.”→ プロのミュージカル歌手7人(女性4・男性3)が、5つの声質——traditional/legit、neutral belt、brassy belt、warm belt、rock belt——でアルペジオのパターンを歌ったピヨ。リアルタイムMRIが、正中矢状断の声道の形を捉えたピヨ。抄録 Methods
そして測った項目が8つピヨ。
“Eight morphological measures were analyzed: lip opening, jaw opening, jaw protrusion, tongue dorsum height, uvula elevation, oropharyngeal opening, laryngeal height, and laryngeal tilt. Linear mixed-effects modeling explored relationships between vocal qualities and anatomical measurements.”→ 分析した形態計測は8つ:唇の開き・顎の開き・顎の前突・舌背の高さ・口蓋垂の挙上・中咽頭の開き・喉頭の高さ・喉頭の傾きピヨ。声質と解剖学的計測値の関係は、線形混合効果モデルで調べたピヨ。抄録 Methods
研究デザインは前向き観察研究ピヨ。歌い方を操作するのではなく、「その声質で歌って」と頼んで、起きたことを記録するタイプピヨ。
8つも測って、ぜんぶ違ったの?
ぜんぶではないピヨ。声質によってはっきり差が出たのは4つピヨ。
“Lip opening, jaw opening, oropharyngeal opening, and laryngeal height showed significant differences across vocal qualities.”→ 唇の開き・顎の開き・中咽頭の開き・喉頭の高さの4つに、声質による有意差が出たピヨ。抄録 Results
つまり顎の前突・口蓋垂の挙上・舌背の高さ・喉頭の傾きについては、有意差ありとは書かれていないピヨ(舌の高さは、次のシーンで別の形で出てくるピヨ)。
そして、両端がはっきりしたピヨ。
“The traditional/legit voice quality demonstrated the smallest lip, jaw, and oropharyngeal openings with the lowest laryngeal position. Rock belt showed the largest lip and jaw openings.”→ traditional/legit は、唇・顎・中咽頭の開きがいずれも最小で、喉頭位置も最も低かったピヨ。rock belt は唇と顎の開きが最大だったピヨ。抄録 Results
legit が「いちばん小さくまとまった形」、rock belt が「いちばん開いた形」——この2つが端っこで、他のベルトはそのあいだに並ぶ、という絵柄ピヨ。
メガホンの話! ずっと気になってた。何がちがったの?
ここが今回のいちばんの見どころピヨ。
“Brassy belt and rock belt featured larger oropharyngeal space and higher tongue positions than other qualities, creating a ‘tube-like’ shape rather than the previously suggested megaphone shape.”→ brassy belt と rock belt は、他の声質より中咽頭の空間が広く、舌の位置が高かったピヨ。その結果、これまで言われてきたメガホン型ではなく「チューブのような」形になっていたピヨ。抄録 Results
メガホン型というのは「のど(咽頭)は狭く、口は大きく開く」という形ピヨ。ところが今回の画像では、のども広かったピヨ。口だけ広がるラッパ型ではなく、入口から奥まで太さのそろった筒——だから「チューブ状」ピヨ。
「これまで言われてきた」って、だれが言ってたの?
いい質問ピヨ。この論文の抄録には出典が書かれていないけれど、ピヨ版で読んだ Bourne & Garnier の序論に、その見立てがはっきり書いてあるピヨ。
“The belt vocal tract shape has been compared to a megaphone (Titze and Worley, 2009) because of the more constricted pharynx, higher larynx position, and more opened mouth observed in this vocal production…”→ ベルトの声道の形は、咽頭がより狭く・喉頭位置が高く・口がより開くことから、メガホンにたとえられてきたピヨ(Titze & Worley, 2009)。別論文:Bourne & Garnier (2012) p.1586–1587
ここでの食い違いは咽頭ピヨ。従来の見立ては「狭い咽頭」、今回のMRIは「広い中咽頭」ピヨ。口が開くことと喉頭が高いことは今回も一致しているので、3点セットのうち1点がひっくり返ったという読み方になるピヨ。
喉頭は? ベルトは喉頭が上がるってよく言われるけど。
そこは従来のイメージどおりピヨ。
“Laryngeal positioning was elevated in all belting styles, but not in traditional/legit. No significant differences were found between male and female participants.”→ 喉頭の位置はすべてのベルト系で高く、traditional/legit では高くなかったピヨ。男女のあいだに有意差は見つからなかったピヨ。抄録 Results
「性差なし」は地味だけど大きい結果ピヨ。これまでのベルト研究は女声中心だったので、男声でも同じ形の作り方をしていたという報告になるピヨ。
もうひとつ、音の高さの効果も出ているピヨ。
“Lower pitch tasks were characterized by smaller lip, jaw, and oropharyngeal openings compared with higher pitch tasks.”→ 低い音の課題では、高い音の課題にくらべて唇・顎・中咽頭の開きが小さかったピヨ。抄録 Results
つまり「開き」は声質だけで決まるのではなく、音高につれても変わるピヨ。同じ rock belt でも、低い音と高い音では形がちがうということピヨ。
これ、前の2本とはどうつながるの? あっちは音、こっちは形だよね。
つながるピヨ。3本を並べると、同じ絵を別の窓からのぞいていることがわかるピヨ。
とくにおもしろいのが、Sundberg たちが「F1 が高いのは、こういう調音のせいだろう」と推測した部分ピヨ。
“The higher F1 values in the belting substyles would reflect articulatory characteristics, such as a wider jaw opening, a narrower pharynx, and/or spread lips.”→ ベルティングのサブスタイルで F1 が高いのは、顎をより広く開ける・咽頭をより狭める・唇を横に引くといった調音の特徴を映しているのだろうピヨ。別論文:Sundberg, Thalén & Popeil (2012) p.48
今回のMRIは、顎の開きについては当たり(ベルトで大きい)、咽頭については逆(brassy・rock で広い)を示したピヨ。音から推測した形を、画像が部分的に裏づけ、部分的に修正した——という関係ピヨ。
じゃあ「ベルトはチューブ型」で決まり? メガホン説は引退?
そこまで急がないピヨ。著者たち自身がパイロット研究と呼んでいるピヨ。
“This pilot study revealed distinct vocal tract configurations for different vocal qualities, particularly between traditional/legit and belting styles. The findings challenge previous assumptions about megaphone-shaped vocal tracts in belting, demonstrating more complex configurations.”→ このパイロット研究は、声質ごとに異なる声道配置があること——とくに traditional/legit とベルト系のあいだで——を示したピヨ。この結果は、ベルトの声道はメガホン型だというこれまでの前提に異議を投げかけ、もっと複雑な配置があることを示しているピヨ。抄録 Conclusion
言い方が「くつがえした(overturn)」ではなく「異議を投げかける(challenge)」なのが大事ピヨ。7人の予備研究で、しかもbrassy と rockの2つについての観察ピヨ。neutral belt と warm belt がどうだったかは、抄録には書かれていないピヨ。
そして、この研究が目指す先はこうピヨ。
“These results provide a foundation for identifying typical versus atypical vocal tract adjustments in CCM singing, with implications for voice pedagogy and clinical practice.”→ この結果は、CCM 唱法における典型的な声道調整と、そうでない調整を見分けるための土台になり、声の指導と臨床の両方に意味を持つピヨ。抄録 Conclusion
「この歌い方は普通の範囲か、それとも心配な範囲か」を判断する物差しを作りたい——というのが動機ピヨ。ちなみにこの研究は2017年 Van Lawrence Fellowship の集大成で、一部は2019年の Voice Foundation シンポジウムで発表されているピヨ。
本文が読めたら、何が増えるの?
知りたいことは山ほどあるピヨ。MRI の実際の画像、5つの声質の具体的な数値、neutral belt と warm belt の位置づけ、歌った音高と母音、そして音響データを一緒に取っているのかどうかピヨ。
いまのページは、抄録という看板だけを読んで書いた案内ピヨ。中に入れたら書き直すピヨ。
3問いくピヨ! 答えはこのページの中にあるピヨ。
Q1. 8つの計測項目のうち、声質による有意差が出たのはどの4つ?
Q2. 「メガホン型ではなくチューブ状」と言えたのは、どの声質の、どの部位の観察から?
Q3. 男女の比較と、音の高さの影響について、抄録は何と言っている?
思い出せなかったら、シーンに戻っていいピヨ。
よし、答え合わせ!
A1. 唇の開き・顎の開き・中咽頭の開き・喉頭の高さの4つ(シーン3)。
A2. brassy belt と rock belt で、中咽頭の空間が広く舌の位置が高かったという観察から。口だけでなくのども広いので、ラッパ型ではなく筒型になる(シーン4)。
A3. 男女のあいだに有意差はなかった。音高については、低い音のほうが唇・顎・中咽頭の開きが小さかった(シーン5)。
ぜんぶ言えたら上出来ピヨ! この調子でいこうピヨ!
本ページの土台(抄録のみ):Denis Michael Rudisch, Kai Tobias Block, Matt Edwards, Aaron M. Johnson, “Investigating Vocal Tract Configurations Across Different Belting Qualities in Female and Male Musical Theater Singers Using Real-Time Dynamic MRI,” Journal of Voice, online ahead of print, 2025 May 16. doi:10.1016/j.jvoice.2025.04.021 / PMID: 40382246. 所属:University of Wisconsin–Madison/NYU Grossman School of Medicine(Radiology, Otolaryngology–Head and Neck Surgery)/Shenandoah Conservatory。キーワード:Belting—Contemporary commercial music (CCM)—Magnetic resonance imaging—Musical theater—Singing—Singing styles—Vocal tract.
本文は購読が必要で未読ピヨ。本ページには本文由来の数値・図・考察は含まれていないピヨ。全文を入手したら差し替えるピヨ。
比較のために引用した別論文:Tracy Bourne & Maëva Garnier, J. Acoust. Soc. Am. 131(2), 1586–1594 (2012)/Johan Sundberg, Margareta Thalén & Lisa Popeil, Journal of Voice 26(1), 44–50 (2012)。それぞれのピヨ版は こちら・こちらピヨ。