ピヨ鳥とピヨ猫の声楽ゼミ ・ まとめ編

ベルティング3本を並べて読むピヨ
音源(2012)・共鳴(2012)・形(2025)の三面図

Sundberg・Thalén・Popeil (2012) / Bourne & Garnier (2012) / Rudisch・Block・Edwards・Johnson (2025)

ピヨ鳥
ピヨ鳥
声楽音響にくわしい先生。
やさしく教えるピヨ。
ピヨ猫
ピヨ猫
お笑い好きの生徒。
ボケ担当ニャ。
① Johan Sundberg, Margareta Thalén, Lisa Popeil, “Substyles of Belting: Phonatory and Resonatory Characteristics,” Journal of Voice 26(1), 44–50 (2012).
② Tracy Bourne, Maëva Garnier, “Physiological and acoustic characteristics of the female music theater voice,” J. Acoust. Soc. Am. 131(2), 1586–1594 (2012).
③ Denis Michael Rudisch, Kai Tobias Block, Matt Edwards, Aaron M. Johnson, “Investigating Vocal Tract Configurations Across Different Belting Qualities … Using Real-Time Dynamic MRI,” Journal of Voice (2025, online ahead of print).
🐤 このページは、ピヨ版3本の復習と読み比べピヨ。①②は全文、③は公開抄録のみが出どころピヨ。
ピヨ鳥の約束:引用はどの論文の何ページから引いたかを毎回書くピヨ。3本を突き合わせて言えること・言えないことは分けて話すピヨ。資料に無いことは作らないピヨ。
🗺️ 0. なぜ3本を並べるのか
ピヨ猫

ベルティングの論文を3本読んだけど、正直こんがらがってきた。まとめて!

ピヨ鳥

まかせるピヨ。整理のコツは「どの窓からのぞいた研究か」で並べることピヨ。3本はぜんぶベルティングを見ているけれど、のぞいている窓がちがうピヨ。

  • ①音源の窓(Sundberg ほか 2012)=声帯がどう鳴っているか
  • ②共鳴の窓(Bourne & Garnier 2012)=声道がどの倍音を狙っているか
  • ③形の窓(Rudisch ほか 2025)=声道が実際どんな形か

同じ年(2012)に出た①と②が、正面からぶつかる結論を出しているのがこの分野のおもしろいところピヨ。そこに13年後、MRIで形を直接見た③が加わったピヨ。この順で復習していくピヨ!

🌳 1. 3本の位置づけマップ
ピヨ猫

先に見取り図がほしいニャ。どれが何を測ったのか、ひと目で。

ピヨ鳥

枝分かれのなかま分けピヨ。3つの窓ごとに「誰が・何人を・何で測って・何と言ったか」を並べたピヨ。

  • 🎺 ①音源の窓 ― Sundberg・Thalén・Popeil (2012)

    1人の歌手が6スタイルを歌い分け、声帯側を測る。

    • 対象2. 復習①heavy/brassy/ringy/nasal/speechlike の5ベルト+クラシック。被験者は1人(共著者の L.P.)。
    • 道具/p/ の口腔内圧で声門下圧、EGG、逆フィルタによるフロー・グロトグラム、LTAS。
    • 結論サブスタイル同士を分けるのは音源。フォルマントはベルトとクラシックを分けるだけ。
  • 🎯 ②共鳴の窓 ― Bourne & Garnier (2012)

    6人の歌手で、声道共鳴を外から直接測る。

    • 対象3. 復習②legit/chesty belt/twangy belt(+3人は mix)。女声6人。
    • 道具唇から広帯域音を送り込むインピーダンス測定(R1・R2)、EGG(OQ・Qcs)、SPL・α係数。
    • 結論ベルトは R1 を 2f₀ に C5 まで合わせる。legit にその同調はない。
  • 🧲 ③形の窓 ― Rudisch・Block・Edwards・Johnson (2025)

    7人(男女)の声道の形をMRI動画で撮る。

    • 対象4. 復習③traditional/legit/neutral belt/brassy belt/warm belt/rock belt。女性4・男性3。
    • 道具リアルタイム動的MRI(正中矢状断)、8つの形態計測、線形混合効果モデル。
    • 結論声質ごとに別の声道配置。brassy・rock はメガホンではなくチューブ状

この3枚を重ねると、ベルティングという1つの現象の立体図になるピヨ。

🎺 2. 復習① 音源で分かれる(2012)
ピヨ猫

1本目、もう一回おさらいして!

ピヨ鳥

ベルティングを5つのサブスタイルに割って測った研究ピヨ。歌ったのは『ジプシー』の一節、被験者は共著者でボイスコーチの L.P. 1人。専門家8人の聞き取りテストで「ちゃんとそのスタイルに聞こえる」ことを先に確かめてから、数字を取っているのが誠実なところピヨ。

結果はきれいな両極ピヨ。ヘビーが声門下圧・MFDR・閉鎖商で最大、H1-H2 と NAQ で最小。クラシックがその正反対。閉鎖商はヘビーとブラッシーで 0.5 近く、クラシックは 0.25 以下、リンギーは中間の約 0.3 ピヨ。

“Thus, the differences between the belting substyles mainly concerned the voice source.”→ ベルティングのサブスタイル同士の違いは、主として音源にあったピヨ。①Sundberg ほか p.44 Summary

フォルマントのほうは、サブスタイル間の差が不規則で、はっきりしたのは「クラシックだけ F1 が一貫して低い」ことだけピヨ。

① Substyles of Belting: Phonatory and Resonatory Characteristics

Sundberg・Thalén・Popeil / Journal of Voice 26(1), 44–50 (2012)

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声門下圧と等価音圧レベルをスタイル別に比べた棒グラフ
FIGURE 3. Psub and Leq averaged across tones for the different vocal styles in the /pae/ version of the song excerpt and, in the left graph, also for the diminuendo sequences.
🐤 ①の図ピヨ。左が声門下圧、右が音の大きさ。ヘビーが両方で頭ひとつ抜けているピヨ。 出典:Sundberg, Thalén & Popeil (2012), Figure 3, p.47. 原図を切り出して引用(改変なし)ピヨ。
🎯 3. 復習② R1を2f₀に合わせる(2012)
ピヨ猫

2本目! こっちは「合わせてる」って話だったよね。

ピヨ鳥

そうピヨ。オーストラリアの女声ミュージカル歌手6人が legit・chesty belt・twangy belt を歌い、3人は mix も歌ったピヨ。この研究のすごいところは、声道の共鳴を推定ではなく直接測ったことピヨ(唇から広帯域音を送り込むピヨ)。だから F1・F2 ではなく R1・R2 と呼ぶピヨ。

“In chesty belt and twangy belt, singers systematically tuned the frequency of their first vocal tract resonance (R1) to the second harmonic (2f0) up to C5. R1 remained lower in frequency for the legit quality.”→ チェスティ・ベルトでもトゥワンギー・ベルトでも、歌い手はR1 を第2倍音(2f₀)に C5 まで系統的に合わせていたピヨ。legit では R1 は低いままだったピヨ。②Bourne & Garnier p.1586 Abstract

声帯側も別世界だったピヨ。

“OQ values in belt were observed in a completely distinct range (0.43 ± 0.06) to values in legit (0.68 ± 0.08)… these two ranges correspond to typical OQ values in laryngeal mechanisms M1 and M2.”→ ベルトの OQ(0.43 ± 0.06)と legit の OQ(0.68 ± 0.08)はまったく別の範囲にあり、これは喉頭メカニズム M1M2 の典型値に対応するピヨ。②Bourne & Garnier p.1591 IV A

音圧はベルトのほうが 10.7 ± 4.3 dB 大きかったピヨ。

そしてchesty と twangy の差は R2 が 66 ± 37 Hz 高いことだけ——だから「ベルトに下位分類があるとは言えない」と結論しているピヨ。

② Physiological and acoustic characteristics of the female music theater voice

Tracy Bourne・Maëva Garnier / J. Acoust. Soc. Am. 131(2), 1586–1594 (2012)

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legit・chesty belt・twangy belt・mix の共鳴戦略を母音別に比べた図
FIG. 1. (Color online) Comparison of resonance strategies in legit, chesty belt, twangy belt and mix qualities, for the two vowels studied ([e] and [ɔ]), as a function of f0. …They visually emphasise how R1 is tuned to 2f0 in chesty belt and twangy belt.
🐤 ②の図ピヨ。左端 legit の青(R1)は平ら、ベルト2列の青は 2f₀ の点線に沿って斜めに登っているピヨ。これが「合わせている」の見た目ピヨ。 出典:Bourne & Garnier (2012), FIG. 1, p.1589. 原図を切り出して引用(改変なし)ピヨ。
🧲 4. 復習③ 形はチューブ状(2025)
ピヨ猫

3本目はMRIのやつニャ。新しいほう。

ピヨ鳥

そうピヨ。プロのミュージカル歌手7人(女性4・男性3)が、traditional/legit・neutral belt・brassy belt・warm belt・rock belt の5つでアルペジオを歌い、その最中の正中矢状断をリアルタイムMRIで撮ったピヨ。8つの形態計測のうち唇の開き・顎の開き・中咽頭の開き・喉頭の高さの4つに有意差が出たピヨ。

両端は legit と rock belt ピヨ——legit が最もコンパクトで喉頭も最低位、rock belt が最も大きく開くピヨ。そして目玉がこれピヨ。

“Brassy belt and rock belt featured larger oropharyngeal space and higher tongue positions than other qualities, creating a ‘tube-like’ shape rather than the previously suggested megaphone shape.”→ brassy belt と rock belt は、他より中咽頭が広く、舌の位置が高かったピヨ。その結果、従来言われてきたメガホン型ではなく「チューブのような」形になっていたピヨ。③Rudisch ほか 抄録 Results

喉頭はすべてのベルト系で高く、男女差は有意でなかったピヨ。低い音ほど開きが小さいというピッチの効果もあったピヨ。ただし著者自身がパイロット研究と呼んでいて、ピヨ鳥が読めたのも抄録だけピヨ。数値と図はまだ手元にないピヨ。

③ Investigating Vocal Tract Configurations Across Different Belting Qualities … Real-Time Dynamic MRI

Rudisch・Block・Edwards・Johnson / Journal of Voice (2025, online ahead of print) ※抄録のみ

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⚔️ 5. 3本が食い違うところ
ピヨ猫

で、どこがケンカしてるの? そこが知りたいニャ。

ピヨ鳥

3つあるピヨ。

争点1:第1共鳴は第2倍音に合っているのかピヨ。②は「C5 まで系統的に合わせていた」、①は真逆ピヨ。

“As shown in Figure 7, there was no tendency for F1 to be close to the second spectrum partial.”→ 図7 のとおり、F1 が第2倍音に近づくという傾向は見られなかったピヨ。①Sundberg ほか p.49 DISCUSSION

ただし前提がちがうピヨ——①は1人で主に F4〜A♭4、②は6人で F#4〜D5。①は音から推定したフォルマント、②は直接測った共鳴。歌ったサブスタイルの名前もちがうピヨ。「どちらかが間違い」ではなく、音域と測り方で見え方が変わると読むのが安全ピヨ。

争点2:咽頭は狭いのか広いのかピヨ。①はベルトの高い F1 を「顎を広く開け、咽頭を狭め、唇を引く」せいだろうと推測したピヨ。ところが③のMRIでは、brassy・rock で中咽頭が広かったピヨ。音から推した形を、画像が部分的に修正したピヨ。

争点3:ベルトに下位分類はあるのかピヨ。①は5つのサブスタイルが音源の値で並ぶと示し、②は chesty と twangy にほとんど差がない(R2 以外)と結論、③は5つの声質で形の配置が違うと報告——ここは3本とも少しずつ違う立場ピヨ。

ピヨ猫

じゃあ結局、どれを信じればいいのニャ…

ピヨ鳥

「どれか1つ」を選ばないのがコツピヨ。3本とも人数が少ないピヨ——①は1人、②は6人、③は7人ピヨ。①は自分から「1人だけなので一般性に疑問が残る」と書き、③も自分の位置づけを控えめに書いているピヨ。

“This pilot study revealed distinct vocal tract configurations for different vocal qualities… The findings challenge previous assumptions about megaphone-shaped vocal tracts in belting, demonstrating more complex configurations.”→ このパイロット研究は、声質ごとに異なる声道配置があることを示したピヨ。この結果は、ベルトの声道はメガホン型だという従来の前提に異議を投げかけ、もっと複雑な配置があることを示しているピヨ。③Rudisch ほか 抄録 Conclusion

「くつがえした」ではなく「異議を投げかける」ピヨ。小さな研究を重ねて像を作っている途中の分野ピヨ。

🤝 6. 3本が一致するところ
ピヨ猫

逆に、みんなが同じこと言ってるのは?

ピヨ鳥

そこが持ち帰れるところピヨ。4つあるピヨ。

  1. ベルトとクラシック/legit ははっきり別物——①は F1 と音源の両方で、②は R1 の同調・OQ の範囲・音圧で、③は開きと喉頭位置で、いずれもくっきり分けたピヨ。
  2. ベルトは大きい——②で 10.7 dB 差、①でもヘビーが最大の音圧と最高の声門下圧ピヨ。
  3. ベルトでは喉頭が高い——③がすべてのベルト系で挙上を確認し、②も先行研究として同じ像を引いているピヨ。
  4. 口はよく開く——①の推測(顎を広く開ける)と③の実測(顎と唇の開きが大きい)が一致ピヨ。

逆にいうと、3本のあいだで揺れているのは「のどの中」ピヨ。咽頭が狭いのか広いのか、R1 を合わせているのかいないのか——外から見える部分(口・音量・喉頭の高さ)は一致していて、見えにくい部分がまだ定まっていないピヨ。

🎓 7. レッスンに持ち帰るなら
ピヨ猫

で、歌う人・教える人は何をすればいいの?

ピヨ鳥

論文が書いている範囲で言えることを3つ挙げるピヨ。これは指導法の提案ではなく、論文の記述の要約ピヨ。

  1. legit とベルトは別の技術として扱う——②はこう述べているピヨ。
    “Distinct differences in the vocal production of belt and legit were demonstrated by the six singers in this study, suggesting that technical and pedagogical approaches may need to differ for these styles.”→ この研究の6人は、ベルトと legit の発声にはっきりした違いを示したピヨ。このことは、この2つの様式では技術的・教育的なアプローチを変える必要があるかもしれないことを示唆するピヨ。②Bourne & Garnier p.1592–1593 IV C
  2. ベルトの上限には理由があるかもしれない——②は、多くの歌い手が最高ベルト音(だいたい C5 = 1000 Hz 付近、話し声で R1 が取りうる上限とほぼ同じ)まで低い OQ を保つことから、R1:2f₀ チューニングの終わりがベルト音域の上限を決めているのではと問いかけているピヨ。
  3. 「ベルトの色」の作り分けは、口の形より音源側かもしれない——①はサブスタイルの違いが主に音源にあったと結論しているピヨ。ただし③は声質ごとに形の配置も違うと報告しているので、どちらか一方ではないピヨ。

そして注意書きピヨ。①は1人・短3度の一節、②は女声6人・重なり音域、③は7人のパイロットで抄録のみピヨ。「研究がこう言っている=あなたの声もこう」ではないピヨ。自分の声で確かめる材料として使うピヨ。

📝 8. たしかめクイズ
ピヨ鳥

3本ぶんの総復習ピヨ! 3問いくピヨ。

Q1. 3本はそれぞれ「何の窓」からベルティングを見た?
Q2. ①と②が正面からぶつかっている争点は何? その違いを生んだ可能性のある条件は?
Q3. 3本が一致しているのはどんな点?

迷ったら各シーンに戻っていいピヨ。

ピヨ猫

総復習…! 答え合わせ!

💡 答えを見る

A1. ①Sundberg ほか=音源(声門下圧・閉鎖商・NAQ など)、②Bourne & Garnier=共鳴(R1・R2 の直接測定)、③Rudisch ほか=(リアルタイムMRIの声道配置)(シーン0・1)。

A2. 第1共鳴(F1/R1)が第2倍音に同調しているか。②は C5 まで系統的に同調、①は傾向なし。条件の違いは、人数(1人 vs 6人)・音域(主に F4〜A♭4 vs F#4〜D5)・測定法(音からの推定 vs 声道インピーダンスの直接測定)・サブスタイルの呼び名(シーン5)。

A3. ベルトと legit/クラシックがはっきり別物であること、ベルトは音量が大きいこと、ベルトでは喉頭が高いこと、口(顎・唇)がよく開くこと(シーン6)。

ピヨ鳥

ここまで言えたら、3本を「読んだ」と言っていいピヨ! よくがんばったピヨ!

3本まとめ修了ピヨ!🎓 音源(①)・共鳴(②)・形(③)の三面図。一致するのは「ベルトは legit と別物・大きい・喉頭が高い・口がよく開く」、揺れているのは「のどの中」——咽頭の広さと R1:2f₀ の同調ピヨ。どれも小規模研究、決着はまだピヨ。

📚 出典ピヨ

  1. Johan Sundberg, Margareta Thalén, Lisa Popeil, “Substyles of Belting: Phonatory and Resonatory Characteristics,” Journal of Voice 26(1), 44–50 (2012). doi:10.1016/j.jvoice.2010.10.007 / ピヨ版:sundberg-belting-substyles
  2. Tracy Bourne, Maëva Garnier, “Physiological and acoustic characteristics of the female music theater voice,” J. Acoust. Soc. Am. 131(2), 1586–1594 (2012). doi:10.1121/1.3675010 / ピヨ版:bourne-garnier-female-mt-voice
  3. Denis Michael Rudisch, Kai Tobias Block, Matt Edwards, Aaron M. Johnson, “Investigating Vocal Tract Configurations Across Different Belting Qualities in Female and Male Musical Theater Singers Using Real-Time Dynamic MRI,” Journal of Voice (2025, online ahead of print). doi:10.1016/j.jvoice.2025.04.021 / PMID: 40382246 / 本文未読・抄録のみ / ピヨ版:rudisch-belting-rtmri

図は①②の原PDFから切り出して引用(改変・創作なし)ピヨ。③は本文未入手のため図は無いピヨ。