PRACTICAL VOCAL ACOUSTICS ・ ピヨ版
Practical Vocal Acoustics(実践的声楽音響学)/ Kenneth Bozeman 著
ピヨ鳥せんせい、第9章は「ターンオーバーの知覚」ニャ。理屈はもう第6章でやったよね?何が違うニャ?
いいところに気づいたピヨ。第6章が「しくみ」なら、第9章は「どう聞こえ・どう感じるか」=知覚の章ピヨ。要点はこの4つピヨ:
この章は名歌手14の譜例つきの鑑賞ガイドピヨ。ぜひ実際の録音を聴きながら読むのがおすすめピヨ!
そもそも声が「ターンオーバー」したとき、聴いてる人にはどう聞こえるニャ?
原典もまさにその問いから始まるピヨ:
“When a voice turns over—when 2fo rises through fR1—what does it sound like to the audience? And what does it sound and feel like to the singer?” → 声がターンオーバーするとき(2foがfR1を越えるとき)、聴衆にはどう聞こえ、歌い手にはどう聞こえ・どう感じられるのか?ピヨ。 p.81
答えは声種・母音・能動か受動かで変わり、しかも知覚は個人的だから、固定的には言えないピヨ。それでも、歴史的な用語・経験・生徒の反応にもとづく典型的で実用的な描写は示せる、というのがこの章のスタンスピヨ。特に非トレブル声には重要で、G4より下のオクターブで全母音がターンし、深い声ではD4あたりから始まるピヨ。
人によって違うなら、結局「正解」はないってことニャ?
「唯一の正解の感覚」はないけど、「典型的な傾向」はあるピヨ。大事なのは、うまくいったターンは「筋肉でこじ開けた」感じではなく「音響的に起きた」感じになること。変化すら繊細なんだピヨ。それを踏まえて、まず母音がどう動くかから見ていこうピヨ。
ターンすると母音はどっちに動くニャ?
母音を前舌・後舌の2家系に分けると分かりやすいピヨ。閉じめ→開きの順に 前舌 [i ɪ e ɛ æ a] と 後舌 [u o ʊ ɔ ɑ] ピヨ。ターンの受動的移行は同じ家系の中で、より閉じた隣へ動くピヨ:
“The more open, back, or rounded vowels move toward a closer neighbor: [ɔ] will migrate toward [ʊ]; [o] toward [ʊ] or [u]. The more open front vowels close slightly and also medialize … [ɛ] will seem to migrate in the direction of [e] or [ɪ] …” → より開いた・後舌・丸めの母音は、より閉じた隣へ:[ɔ]→[ʊ]、[o]→[ʊ] か [u]。より開いた前舌母音は少し閉じて中央化:[ɛ]→[e] か [ɪ] 方向(唇の形は変えない)ピヨ。 p.82
大事なのは――これが本当に「受動的」なら、その方向へ形を変えてはいけないこと。元の母音と声道の形は、ターンを越えても意図的・表現的に保つピヨ。形は保つのに音色は勝手に移る、これが受動的移行ピヨ。
歌い手自身は、ターンのときどんな感覚があるニャ?
「ターンオーバー(turning over=めくれる・転がる)」という言葉自体が感覚を表しているピヨ。音の頂上がアーチを描き、内側へ、丸まって、口蓋の上から頭の前方へ転がり上がる感じピヨ。口からまっすぐ出る(オープン音色)のに対し、頭の中で反響する方向ピヨ。同時に、音の「下腹」がリラックスした首を通って体へ転がり下りる反対方向の感覚もあるピヨ。原典の比喩がこれピヨ:
“Together these sensations might seem like the two ends of a scroll rolling up and over toward the front, and down and under into the body.” → これらの感覚を合わせると、巻物の両端が、上は前へ巻き上がり、下は体の中へ巻き下りるようなものに感じられるピヨ。 p.83
声が巻物!?じゃあ歌い終わったら、くるくる巻き戻して返却ニャ?
ピヨピヨピヨヨヨヨ、図書館じゃないピヨ!巻物は「上下に同時に伸びる二方向の感覚」のたとえピヨ。この下向きの感覚が、叫び(ヤール)の「上へ・外へ手を伸ばす喉の締め」を打ち消してくれるんだピヨ。注意はアゴを引く(chin-tuck)のを避けること。ターンを助けようと本能的にやりがちだけど逆効果ピヨ。あと閉じすぎた [i][u] は、ヘ音記号の中ほどで既に閉じているから、能動的に開いていく必要があるピヨ。
声のタイプでターンの目立ち方は変わるニャ?
変わるピヨ。軽い声ほどターンと変容は軽く、深く重い声ほど目立つピヨ。レッジェーロ・テノールは繊細、バス・深いバリトン・ドラマティックテノールは劇的になりがちピヨ。開母音、特に後舌の [ɔ][ɑ] でターンは目立つピヨ。
そして、ターンには能動と受動の違いが出るピヨ。なめらかに移すのが基本だけど、能動的に誇張もできるピヨ。テノール、ニコライ・ゲッダのラフマニノフ「ヴォカリーズ」がその例ピヨ。彼はあえてターンの直前までオープン音色で歌い、わざとターンに“引っ掛ける(hook)”ことがあるピヨ(下のFig9.1):
“引っ掛ける(hook)”!?釣り針でターンを引っ掛けて、グイッと釣り上げるニャ?
ピヨピヨ、釣りじゃないピヨ!“引っ掛ける”は、オープンのまま引っぱって、ある音で一気にカクッと深いカバーに切り替える表現のことピヨ。やりすぎなければ強い表現効果になるけど、特別な場面用ピヨ。ゲッダの場合、開いたまま高く保った [ɑ] の F#4 が少し「広がって露骨」に聞こえる箇所もあるピヨ。一方、最後の高 C#5 へのM2移行のなめらかさは絶品ピヨ。能動的ターン=劇薬、使いどころが命ピヨ。
深い声の「目立つターン」の好例が、ホセ・ヴァン・ダムのラヴェル「カディッシュ」ピヨ。曲の終盤、[ɑ] の長いメリスマで声が予測どおりの位置でターンするピヨ。豊かで深い美声では母音の移行がかなり目立つけど、この声種では典型的ピヨ(下のFig9.2):
下から跳び上がってターンに入ると、何か特別なことが起きるニャ?
跳躍で下から近づくと、オープン→クローズの色の変化がより際立って、ターンがとびきりスリリングになるピヨ。ユッシ・ビョルリンクが歌うエイミー・ビーチ「Ah, Love, but a day!」が好例ピヨ。最初の "Ah, Love, but a day" では "love"(F4) と "day"(E♭4) がオープン音色、2回目では同じ歌詞が Ab4 と G4 でターンしてクローズになる――同じ言葉での明確な対比ピヨ。さらに2回目の "day" は G4 でクローズに始まり、長3度下の E♭4 へのポルタメントで開くピヨ(下のFig9.3):
曲の中ほど "Look in my eyes" でも、同じ音域で母音がオープン/クローズに揺れるピヨ。"Look" の [ʊ](F4) はクローズ、すぐ後の "eyes" の [ɑ] は半音低いのにオープン。2回目は [ɑ] が E♭4 でオープンに始まり、Ab4→G4 への跳躍で劇的にクローズへ動くピヨ(下のFig9.4):
「暗くした音色(darkened timbre)」って、わざと暗くするニャ?
上行で深みを保つと、音色がより縦長で、やや暗く感じられるピヨ。ビョルリンクのライブのヘンデル「Ombra mai fù」が、深い声種のような意図的な「暗くした音色」でターン効果を増幅する見事な例ピヨ。まず "Ombra" の [o](D4) をクローズで始め、[ɔ] 経由でクレッシェンドしてオープンへ移るピヨ(下のFig9.5)。これは形を変える能動的移行かもしれないけど、クレッシェンド(音量増)だけでも、第2共鳴の明るい [~ɔ] 的倍音が強まって同じ移行が起きるピヨ:
続く "cara ed amabile" の上行では、[ɑ] が E4・F#4 のオープンから G4 で劇的にクローズへ(Fig9.6)。同じ歌詞の再現では、[ɑ] をオープン(またはミニ・ターン)に保ちつつ [ɛ] はほぼ同じ高さでクローズ、という母音による違いが出るピヨ(Fig9.7):
"fù" の [u] は B3 でクローズ(Fig9.8)。高い "di vegetabile" は予測どおりクローズに始まり、E4 の [ɑ] で開くピヨ。最後の高い "soave più" は F#4 "-ve" で閉じ、G4 "più" でクローズを保つ(Fig9.9)。ただしクローズのまま音程がF1に近づくとウープになって「頭声的すぎる」から、ここでは口とアゴを縦長の [ʊ] に開いて力強さを出しているピヨ。最後の "più" G3 の [u] は、本来クローズの母音をあえてオープンにして強さを得る例ピヨ:
主役の fR1:2fo 以外でも、開いたり閉じたりが聞こえるニャ?
聞こえるピヨ。fR1:3fo や fR1:4fo の「ミニ・ターン」もはっきり聞き取れるピヨ。さっきのヴァン・ダムのカディッシュでも、[ɑ] が F3→B♭3 へ上がるメリスマで、主ターンの5度下の A♭3 でミニ・ターン(fR1:3fo)が起きるピヨ(下のFig9.10):
fR1:2fo・fR1:3fo・fR1:4fo の交差が一気に聞けるのが、バスバリトンのジョージ・ロンドンが歌うシューベルト「An die Musik(音楽に寄せて)」ピヨ。"wieviel" の G#3→B2 のポルタメントで、クローズ [i] の主 fR1:2fo の“開き”が聞こえるピヨ(下のFig9.11):
"wo mich des Lebens wilder Kreis" では、"mich" のクローズ /ɪ/(G#3) から "Lebens" のオープン /e/(A#2)、"wilder" のオープン /ɪ/ へ動くピヨ(Fig9.12)。さらに "bessre/Welt" の [ɛ] で、ミニ・ターン(3foがF1上)とクローズ(2foがF1上)の対比、そしてメリスマで 3foの開きと4foの開きまで聞けるピヨ(Fig9.13。ロンドンの [ɛ] の主ターンは C4):
最後(2:19〜)、[i] と [y] をクローズに保って柔らかい頭声効果(ウープ寄り)を作り、終わりの下行ポルタメント "Kunst" と "danke" で、クローズ [ʊ] のfR1:2fo の開きと [ɑ] のfR1:4fo の開きを聞かせるピヨ(下のFig9.14):
1曲のなかに、開いたり閉じたりミニ・ターンしたり…こんなにいろいろ起きてたニャんて。録音、聴き直したくなったニャ!
その気持ちこそ、この章の狙いピヨ!理屈(第6章)の耳ができると、名演が「音響事象のカタログ」として聞こえてくるピヨ。Madde シンセでも母音の開閉を声種別に再現できるから、ぜひ耳で確かめてほしいピヨ。この調子でいこうピヨ!
Q1. 「うまいターン」と「やりすぎなターン」の違いは?
うまいターンは「筋肉的」でなく「音響的」に感じられ、変化も繊細ピヨ。やりすぎ(過剰な口あけ=ヤール反応、重い母音変容、形の崩壊)は避けるピヨ。能動的な“引っ掛け”は強い表現になるけど、特別な場面用ピヨ。
Q2. ミニ・ターンって、主ターンとどう違うニャ?
主ターンは第2倍音がF1を越える(fR1:2fo)、ミニ・ターンは第3倍音(fR1:3fo、5度下)や第4倍音(fR1:4fo、1オクターブ下)がF1を越えるもっと下の小さな閉じピヨ。効果は繊細だけど、主ターンと同じ移行を低い音程でリハーサルできる宝ピヨ(第8章参照)。
Q3. クレッシェンドしただけで音色が開くって本当ニャ?
本当ピヨ(Fig9.5)。音量を上げると、第2共鳴に乗る高めの倍音が強まり、明るい [~ɔ] 的な色が増えて「開いた」ように聞こえるピヨ。形を変えなくても、強弱だけで音色が動く――だから歌は面白いんだピヨ。