PRACTICAL VOCAL ACOUSTICS ・ ピヨ版
Practical Vocal Acoustics(実践的声楽音響学)/ Kenneth Bozeman 著
ピヨ鳥せんせい、第5章「共鳴とフォルマント」、長そうだけど…ひとことで言うと何ニャ?
覚悟しておいてピヨ、ここは本書で一番中身の詰まった章ピヨ。でも要点はこの6つに絞れるピヨ:
一番のキモは②ピヨ。「共鳴」と「フォルマント」をきちんと分けると、高音で何が起きているかが見えてくるんだピヨ!
前の章で「声道=1/4波長共鳴器」って習ったニャ。トランペットみたいな金管楽器と何が違うの?
いい比較ピヨ!決定的な違いは「壁が硬いか軟らかいか」ピヨ。金管楽器は硬い壁だから、ごく限られた狭い周波数しか響かせないピヨ。でも声道は軟らかくて形を変えられる管。だから共鳴の帯域幅(バンド幅)が広く、調律もゆるいピヨ:
“Being a soft-walled, shapeable tube, the vocal tract has resonances with frequency bandwidths that are wider and less sharply tuned than other quarter-wave instruments. This enables the vocal tract to reinforce source partials that are merely in the vicinity of its resonance frequency peaks.” → 声道は軟らかく形を変えられる管なので、共鳴の帯域幅が他の1/4波長楽器より広く、調律もシャープでないピヨ。おかげで声道は、共鳴ピークの“近所”にいるだけの音源の部分音も強められるんだピヨ。 p.27
逆に、離れた共鳴のちょうど中間に落ちた周波数は、大きく弱められるか消えるピヨ。この「近所なら拾う」性質が、後で効いてくるピヨ。
「共鳴」と「フォルマント」って、本でもよく同じ意味で使われてるニャ。実は違うの?双子みたいなもん?
双子というより「原因と結果」ピヨ。多くの文献では同義に扱うけど、本書はあえて区別するピヨ。まずフォルマントの定義はこうピヨ:
“Formants are actually the spectral peaks of the radiated sound, reflecting how vocal tract resonances have filtered voice source frequencies.” → フォルマントとは実際には放射された音のスペクトルの山であり、声道の共鳴が音源の周波数をどうフィルタしたかを映し出したものピヨ。 p.28
つまり本書では、用語をこう狭く使い分けるピヨ:
“… resonances will refer to the sound transfer potential of the vocal tract, and formants will refer to the realized spectral peaks in the actual, resultant sound as radiated and heard.” → 共鳴(resonance)=声道が音を伝える“潜在的な能力”、フォルマント(formant)=実際に放射されて耳に届いた音に現れた“実現した山”ピヨ。 p.28
潜在能力と、実際に出た音…。でも、その2つって結局同じにならないの?
そこがポイントピヨ。低い声では、ほぼ一致するピヨ。低音は倍音が密に並んでいるから、共鳴の山に必ず倍音が乗っかって、共鳴とフォルマントがほぼ同じになるピヨ(下のFig5.1)。
でも高い声になると話が変わるピヨ。倍音の間隔が広がって、共鳴の山に倍音が乗らないことが起きるピヨ。母音モディフィケーションで合わせ直さない限り、共鳴のピークの近くに倍音が1本も無い――そうなると、共鳴とフォルマントが大きくズレるピヨ(下のFig5.2)。
“… there may be rather more potential vocal tract resonances than the realized, perceived radiated formants. … This becomes significant at higher sung pitches.” → 実際に知覚される放射フォルマントよりも、潜在的な声道共鳴のほうが数が多いこともあるピヨ。これは高い声で重要になるピヨ。 p.28
なるほど!「共鳴という器」と「実際に盛られた料理(フォルマント)」は、低い声だと一致、高い声だとズレる、ってことニャね。区別する意味が分かったニャ。
共鳴っていくつあるの?無限にあったりする?
理論上は無限ピヨ。でも音色として重要なのは3〜5個だけピヨ。位置を決めるのは管(声道)の長さピヨ:
“the longer the tube, the lower the frequencies of the set of resonances … the shorter the tube, the higher and more widely spaced the frequencies of the set of resonances …” → 管が長いほど共鳴の周波数は低く(クラシックで聴き映えする放射フォルマントが増える)、管が短いほど共鳴は高く、間隔も広くなるピヨ。 p.29
重要な共鳴の数は声種で違うピヨ。バスは5個、ソプラノは3個、その他はだいたい4個ピヨ。そして科学的には、共鳴のピークを fR1・fR2・fR3(第1・第2・第3共鳴)、フォルマントを F1・F2・F3(第1・第2・第3フォルマント)と書くピヨ。
管の長さって、そんなに大事なの?
めちゃくちゃ大事ピヨ。管の長さが声種(ファッハ)=声のタイプを決める大きな要因なんだピヨ。だから喉頭の位置(=管の長さ)が音程ごとにフラフラ動く歌い手は、音色が統一されず、声種も一貫しなくなるピヨ(ソプラノの最高音域は例外)。管の長さを安定させることが、統一された音色の土台ピヨ。
母音「あいうえお」って、どうやって作り分けてるニャ?
主役は第1・第2共鳴(→第1・第2フォルマント)ピヨ。この2つは摂動に反応しやすく、母音の音色の周波数帯をカバーしているから、母音フォルマント(vowel formants)と呼ばれるピヨ。調律のしかたはこうピヨ:
“An internal narrowing nearer to the front (nearer the lips) causes a lower first resonance and a higher second resonance. A narrowing nearer the back causes a higher first resonance and a lower second resonance. Lip rounding lowers both resonances, especially the first, and lip spreading raises both resonances, especially the first.” → 舌などのくびれが前(唇寄り)だと「F1↓・F2↑」、後ろだと「F1↑・F2↓」。唇を丸めると両方下がる(特にF1)、唇を横に広げると両方上がる(特にF1)ピヨ。 p.31
もっとざっくり言うと、口を開ける/舌の背を下げる → fR1(第1共鳴)が上がる、舌の背を前にして口蓋に近づける → fR2(第2共鳴)が上がるピヨ。各母音のF1・F2の位置を地図にしたのが下のFig5.3ピヨ:
このF1・F2を意図的に動かして母音を作り変えるのが母音モディフィケーション(vowel modification)ピヨ。理想は管の長さ(=音色の統一)を保ったまま調律することピヨ。習慣的な「しゃべり」の口の形からあえて変えるので、より正確には能動的(active)母音モディフィケーションと呼ぶピヨ。
F1とF2、それぞれ何の担当なのか整理したいニャ。まずF1は?
F1の担当は「深み・豊かさ・丸み」と「母音の開閉」ピヨ。一番低い共鳴だから、低い倍音の強さ=声の温かみを生むピヨ。F1は [u][o][ɔ]系の音色帯(だいたいC4〜A5)にあって、合成された母音の知覚に「温める [~u] や [~o] っぽい色」を足すんだピヨ。
大事なルール:F1の共鳴ピークの“近く”に倍音が最低1本ないと、深みが出ないピヨ。これが無いと声は痩せて金切り声っぽくなるピヨ。特に高声(トレブル)の上の音域で重要ピヨ。
「母音の開閉」っていうのは?
F1の高さが、母音のクローズ(閉じめ)/オープン(開いた)を決めるピヨ:
“Close vowels such as [i] or [u] have low first formants. Open vowels such as [ɛ], [ɔ], or [ɑ] have high first formants. Therefore, the higher the first formant, the more open the vowel; the lower the first formant, the closer the vowel.” → [i] や [u] のようなクローズ母音はF1が低く、[ɛ][ɔ][ɑ] のようなオープン母音はF1が高い。つまりF1が高いほど開いた母音、低いほど閉じた母音に聞こえるピヨ。 p.33
色にたとえると分かりやすいピヨ。「赤」と一口に言っても幅があるよね。同じ母音でもF1を上げると開いた発音に、下げると閉じた発音に聞こえて、上げすぎると隣の母音に化ける([i]→[ɪ]、[e]→[ɛ] など)ピヨ。
そして超重要なのが――音源の倍音がF1を通り抜けるたびに、音色が開閉して「音響的レジストレーション」として聞こえるピヨ。すべての音響的レジストレーション事象は、第1共鳴と倍音の相互作用に主に関わるんだピヨ(詳しくは第6章)。
じゃあF2は何の担当ニャ?
F2の担当は「母音の明瞭さ(どの母音か分かる度)」と「前舌/後舌の感じ」ピヨ。両方のフォルマントが母音に関わるけど、“どの母音か”をはっきりさせるのは主にF2なんだピヨ。前後はこうピヨ:
“Front vowels, such as [i], have a high second formant while back vowels, such as [u], have a low second formant.” → [i] のような前舌母音はF2が高く、[u] のような後舌母音はF2が低いピヨ。 p.35
なぜ前後が分かるかというと、F2が近くのフォルマントを増強するからピヨ。原典のかわいい比喩を借りるとこうピヨ:
“Proximate formants are mutually reinforcing. Like party animals, when they get together, they make more noise!” → 近いフォルマント同士はお互いを強め合うピヨ。パーティ好きみたいに、集まるほど騒がしくなるピヨ! p.35
だからF2が低いとF1とつるんで低音が増え「奥(暗い)」の母音に、F2が高いとシンガーズ・フォルマントとつるんで輝きが増し「前(明るい)」の母音に聞こえるピヨ。
明るい音は「前」、暗い音は「奥」。当たり前ニャ!明るいものが前に出てくるのは世界の常識ニャ!
ピヨピヨピヨヨヨヨ、自信たっぷりだけど、そこが落とし穴ピヨ!たしかに「明るい=前、暗い=奥」と感じるのは人類共通の本能ピヨ。でも、それが二者択一の極端な音色対立を生んでしまうピヨ。原典はむしろ感覚を逆さにすることを勧めているピヨ:
“Resonance tuning is more effectively balanced by conceptually reversing this orientation to sensing bright tone colors in back and dark in front.” → 共鳴の調律は、この向きを概念的に逆転させ、明るい音色を“奥”に、暗い音色を“前”に感じるようにすると、より効果的にバランスが取れるピヨ。 p.36
キミの「常識」、見事にひっくり返されたピヨ!この“逆さの感覚”が、明暗を両立させるコツにつながるピヨ。
ぐぬぬ…。ところでF2って、テノールの高音とかでも使うって聞いたニャ?
その通りピヨ。声が「ターンオーバー(受け渡し)」して第2倍音がF1のピークを越えて力を失うとき、プロのテノールやバリトンは第2共鳴を調律してF2を持ち上げ、別の高い倍音を拾って“特に輝く高音”を作ることが多いピヨ(Donald Miller 2008)。中声域のトレブルや、ベルトを高く伸ばす歌い手も似た戦略を使うピヨ。詳しくは後の章(p.54)でやるピヨ。
オーケストラに負けない、あのプロの「キラッ」とした輝き。あれって何ニャ?
それがシンガーズ・フォルマント・クラスター(SFC)ピヨ。第3共鳴以上(fR3〜)を、ある形の条件で束ねると生まれるピヨ:
“This forms the so-called singer’s formant cluster (SFC), that ringing quality associated with professional classical singers that gives them carrying power over orchestras (Sundberg 1974; Titze and Story 1997).” → これがいわゆるシンガーズ・フォルマント・クラスター(SFC)、プロのクラシック歌手の「鳴り(リング)」を作り、オーケストラを越えて声を届かせる力を与えるものピヨ。 p.36
SFCはピアノ最高オクターブ(C7〜C8、だいたい2300〜3500Hz)にあるピヨ。なぜそこが効くかというと――人の耳の穴(外耳道)自身が1/4波長共鳴器で、2000〜4000Hzに共鳴を持っているからピヨ。その帯域の音は鼓膜に届くまでに耳の中で強められるピヨ。声が“耳に刺さる”のは、耳の構造の都合でもあるんだピヨ。
じゃあ、とにかく高い周波数を増やして「輝き」だけ盛れば最強ニャ?
そこが肝心ピヨ。本物のSFCは“深み”とセットでしか生まれないピヨ。研究では、SFCの生成には咽頭の断面積:喉頭口の出口=6:1の差が必要とされるピヨ(Sundberg 1974; Titze and Story 1997)。その条件は喉頭が快適に低く・喉頭咽頭がリラックスして開き・喉頭の出口が狭まるときだけ満たされるピヨ。
“… classic SFC is not just about achieving ‘ring,’ but actually only occurs when accompanied by timbral depth, creating the balanced resonance of chiaroscuro.” → 古典的なSFCは、ただ「鳴り」を出すことではなく、音色の“深み”を伴うときだけ生じ、キアロスクーロのバランスの取れた共鳴を作るものピヨ。 p.38
つまりSFC(輝き)は深み依存ピヨ。明るいだけの声は、古典的なSFCとは呼べないピヨ。明(輝き)と暗(深み)が両立してはじめてキアロスクーロになるんだピヨ。この条件はおまけに収束型の共鳴器を作って、より少ない息や声門抵抗で大きな音響パワーを生む“インタラクティブ”な効果も持つピヨ。
ほかに輝きに関わるパーツってある?
梨状陥凹(りじょうかんおう/piriform sinuses)という、喉頭の脇に枝分かれした空間があるピヨ。これは4000〜6000Hzあたりの共鳴を打ち消して、相対的にSFCを目立たせる働きがあるピヨ(Delvaux and Howard 2014)。喉頭咽頭を狭めると梨状陥凹が閉じて、深みを伴わずに高域を広く持ち上げるファリンジャル・ヴォイス(魔女声/voce di strega)のような音色も作れるピヨ。クラシック以外で「深みなしの明るさ」を狙うときの定番の一つピヨ。
ここまでの話、実際の音のグラフで見せてほしいニャ!
いい欲求ピヨ!パワースペクトルは、縦に「パワー(強さ)」、横に「周波数」を取ったグラフピヨ。母音 [i] の声道のスペクトル包絡を、まずふつうの(線形)周波数で見たのが下のFig5.4ピヨ:
でも音楽家には、横軸をピアノの鍵盤みたいな対数スケールにしたほうが直感的ピヨ。同じ [i] を対数で見たのが下のFig5.5ピヨ:
原典はこう締めくくるピヨ:
“With the lowest first formant and the highest second formant of all vowels, a well produced [i] can have excellent chiaroscuro timbral balance.” → 全母音の中でF1が最も低く・F2が最も高いため、よく作られた [i] は素晴らしいキアロスクーロ(明暗)のバランスを持てるピヨ。 p.40
谷が深い=明るいけど痩せやすい [i] を、深みと両立させられたら一流――ここまでの全部の話が [i] 1個に詰まっているピヨ!
Q1. 結局「共鳴」と「フォルマント」、どう覚えればいい?
共鳴=声道の“響かせる能力”(潜在)、フォルマント=実際に出た音の山(実現)ピヨ。低い声では一致、高い声ではズレる――この一言でOKピヨ。本書はこの区別を意図的に守るピヨ。
Q2. F1とF2、役割をもう一度ひとことで!
F1=深み&母音の開閉(高いほど開いた母音)、F2=母音の明瞭さ&前後(高いほど前舌・明るい)ピヨ。F1は口の開き・舌の背の高さ、F2は舌の前後位置で主に動かすピヨ。
Q3. 「輝き(SFC)だけ盛る」となぜダメなの?
古典的なSFCは深み依存だからピヨ。深みを生む条件(喉頭が低い・喉頭咽頭が開く・喉頭出口が狭まる=収束型共鳴器)が揃って、初めて高域フォルマントが束になるピヨ。深みなしの「明るいだけ」は、ファリンジャル・ヴォイス等の別ジャンルの戦略で、クラシックのキアロスクーロとは別物ピヨ。
Q4. 4200Hzより上の高い音って、歌に関係ないの?
原典の注によると、4200Hzより上は母音の判別にはあまり寄与せず、おもに聴覚的ラフネス(粗さ)の度合いや種類に効くピヨ。ポピュラー系では高音に話声的な明瞭さ・質感を与えるけど、西洋クラシックの共鳴調律では主役ではないピヨ(Note 1)。