PRACTICAL VOCAL ACOUSTICS ・ 詳細対話版(大学生レベル)

第5章 共鳴とフォルマント
― 声道が音を「選ぶ」仕組みを、共鳴とフォルマントに分けて聴く ―

Practical Vocal Acoustics(実践的声楽音響学)/ Kenneth Bozeman 著

📖 出典:Kenneth Bozeman, Practical Vocal Acoustics: Pedagogic Applications for Teachers and Singers, 2nd ed.(NATS/Bloomsbury Academic, 2025)、Chapter 5 “Resonances and Formants”
本ページは個人学習のための要約・整理・翻訳・引用ピヨ。引用は原文+出典の節を添えていますピヨ。
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この詳細版は、第5章の論理展開(声道という共鳴器→共鳴とフォルマントの厳密な区別→位置と数→第一・第二フォルマントの役割→歌手のフォルマント群→鍵盤上での見え方)を原書に沿ってていねいに追うピヨ。専門語からは逃げず、そのつど定義して進むピヨ。腰を据えていこうピヨ。
ピヨ鳥
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声楽音響にくわしい先生。語尾は「〜ピヨ」。やさしく導くピヨ。
ピヨ猫
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学ぶ気まんまんの生徒。たまに大胆にボケる。
🧭 0. この章の射程 ― なぜ「共鳴」と「フォルマント」を分けるのか
ピヨ猫

第5章のタイトルは「共鳴とフォルマント」。でも多くの教科書では resonance(共鳴)formant(フォルマント) は同じ意味で使われている。ボーズマンがわざわざ一章を割いて両者を区別するのは、何のためニャ?

ピヨ鳥

核心を突く入りだピヨ。第5章は「声道がどんな音を通すか」を語る章だけど、その語り方そのものに本書の方法論的な決断が刻まれているピヨ。ボーズマンは、音声科学・教育の文献では二語が同義に扱われてきたと認めたうえで、本書では意図的に狭い定義を採るピヨ:

“This text will hereafter use these terms in their narrower definition for maximal clarity: resonances will refer to the sound transfer potential of the vocal tract, and formants will refer to the realized spectral peaks in the actual, resultant sound as radiated and heard.” → 本書は以後、最大の明確さのためにこれらの用語を狭い定義で使うピヨ。共鳴(resonance)は声道の音響伝達ポテンシャルを指し、フォルマント(formant)は実際の結果音における実現されたスペクトルピーク、すなわち放射され聴かれるものを指すピヨ。 5章 §共鳴とフォルマント

つまり共鳴は「可能性(ポテンシャル)」、フォルマントは「実現された結果」ピヨ。この章の射程は、その区別を土台にして、第一・第二フォルマントの役割と、歌手のフォルマント群(SFC)の正体までを一気に見通すことピヨ。

ピヨ猫

なるほど。「箱が音を通せる帯域」「実際に出てきた音のピーク」を別物として扱う、ということニャ。その差がいつ問題になるかが、たぶんこの章のヤマだ。

ピヨ鳥

その通りピヨ。先取りすると、低い歌唱ピッチでは両者はほぼ一致し、高い歌唱ピッチでは大きく乖離するピヨ。そこに高音域の母音修正や音響的声区変換の理屈が全部ぶら下がってくるピヨ。まずは「声道がそもそもどういう共鳴器か」から始めようピヨ。

📯 1. 声道という共鳴器 ― 四分の一波長共鳴器と広い帯域幅
ピヨ猫

まず声道(vocal tract)の物理的な素性を確認したい。声道は片端が開いて片端が閉じた管、と前章でも出てきた。それが四分の一波長共鳴器になるというのは、具体的にどういう意味ニャ?

ピヨ鳥

声道は唇側が開き声門側がほぼ閉じている管ピヨ。この非対称が共鳴の型を決めるピヨ。それによって声道は四分の一波長共鳴器(quarter-wave resonator)となり、声道の長さの4倍の波長を持つ音波の周波数に一次共鳴(定在波)を持つピヨ。そして高次の共鳴は、声道内の定在波長が四分の一の奇数倍(3/4、5/4、7/4…)になる周波数に現れるピヨ。どの共鳴も管の両端に圧力の節(node)腹(antinode)を持つピヨ。

ピヨ猫

金管楽器も四分の一波長系だと聞く。でも声道はもっと融通が利く印象がある。硬い管と声道の違いは、共鳴の鋭さに出るということニャ?

ピヨ鳥

そこが歌にとって決定的ピヨ。金管のような硬壁の共鳴器は、ごく限定された狭い周波数の部分音しか共鳴させないピヨ。ところが声道は軟壁で形を変えられる管だから、共鳴が広く・ゆるく効くピヨ:

“Being a soft-walled, shapeable tube, the vocal tract has resonances with frequency bandwidths that are wider and less sharply tuned than other quarter-wave instruments. This enables the vocal tract to reinforce source partials that are merely in the vicinity of its resonance frequency peaks.” → 軟壁で形状を変えられる管であるため、声道は他の四分の一波長楽器より帯域幅(bandwidth)が広く、同調の鋭さが低い共鳴を持つピヨ。これにより声道は、共鳴周波数ピークの近傍にあるだけの声源部分音をも増強できるピヨ。 5章 §声道

逆に、広く間隔をあけた共鳴の中間に落ちる周波数は、大幅に弱められるか、完全に抑制されるピヨ。つまり声道は「ピークの近くなら拾い、谷に落ちれば消す」フィルターなのだピヨ。この「近傍なら拾える」という余裕が、次の共鳴とフォルマントの一致/乖離の話の伏線になるピヨ。

🎯 2. 共鳴 ≠ フォルマント ― 一致する低音域、乖離する高音域
ピヨ猫

ここが章の心臓部だと思う。共鳴(伝達ポテンシャル)と、放射されたフォルマント(実際のスペクトルピーク)が一致する条件を、厳密に言うとどうなるニャ?

ピヨ鳥

原文が条件を正確に与えているピヨ。フォルマントは放射された音のスペクトルピークであり、声道共鳴が声源周波数をどうフィルタリングしたかを反映したものピヨ。そして両者が同一になるのは限られた場合だけピヨ:

“Tube resonances (the potential of the tube to filter and transfer sound from the glottis to the lips) and formants (the actual spectral peaks of the resultant, radiated sound) would only be identical if the resonance peaks are tuned precisely to periodicity-reinforced harmonics, or conversely, if harmonics land precisely at resonance peaks.” → 管の共鳴(声門から唇へ音をフィルタ・伝達するポテンシャル)とフォルマント(結果として放射された音の実際のスペクトルピーク)が同一になるのは、共鳴ピークが周期性で強化された倍音に正確に同調しているか、逆に倍音が正確に共鳴ピークに位置している場合に限られるピヨ。 5章 §共鳴とフォルマント

言い換えると、「共鳴のピーク」と「そこに乗る倍音」の両方が揃ったときだけ、ポテンシャルが実現されてフォルマントになるピヨ。

図5.1 声道共鳴の音響伝達特性。共鳴の輪郭に声源倍音が十分に並び、共鳴と放射フォルマントが一致する
図5.1 声道共鳴の音響伝達特性。共鳴(曲線の輪郭)に声源倍音(垂直線)が十分に存在し、共鳴と放射フォルマントが実質的に同一となる状態。
🐤 倍音がピークをびっしり満たしているから、ポテンシャル=結果になっているピヨ。これが低い歌唱ピッチの状況ピヨ。 出典:Kenneth Bozeman, Practical Vocal Acoustics, 図5.1. 原図を切り出して引用(改変なし)ピヨ。
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低い歌唱ピッチでは倍音が密に並ぶから、共鳴の谷間まで埋まる。だからピーク=フォルマントになる、という話だね。では高い歌唱ピッチでは何が壊れるニャ?

ピヨ鳥

倍音の間隔が壊すピヨ。f₀が高くなると倍音どうしの間隔が広がり、共鳴ピークのところに乗せる倍音がそもそも無いことが起こるピヨ:

“At higher sung pitches, potential source harmonics are widely spaced relative to vocal tract resonances, and unless the vocal tract is retuned via active vowel modification, there may be no harmonic at or near a resonance peak.” → 高い歌唱ピッチでは、潜在的な声源倍音が声道共鳴に対して広い間隔で並ぶピヨ。能動的母音修正で声道を再同調しない限り、共鳴ピークの位置やその近傍に倍音が存在しないことがあるピヨ。 5章 §共鳴とフォルマント

この場合、放射フォルマントは声道共鳴から大きく乖離するピヨ。だから実際には、「潜在的な共鳴の数」 > 「実現・知覚される放射フォルマントの数」ということが起こりうるピヨ。これが高音域でこそ重大になるピヨ。

図5.2 声道共鳴の音響伝達特性。共鳴の輪郭に対し倍音がまばらで、共鳴と放射フォルマントに大きな差が生じる
図5.2 同じ伝達特性だが、声源倍音(垂直線)が不十分にしか存在せず、共鳴と放射フォルマントの間に大きな差が生じる状態。
🐤 ピークの位置に倍音が乗っていない=そのピークは「鳴れる場所」なのに「鳴っていない」ピヨ。共鳴とフォルマントがズレる典型ピヨ。 出典:Kenneth Bozeman, Practical Vocal Acoustics, 図5.2. 原図を切り出して引用(改変なし)ピヨ。
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図5.1と図5.2は同じ共鳴曲線で、違うのは倍音(垂直線)の埋まり方だけ。だから「共鳴は箱の性質、フォルマントは中身(倍音)次第」という区別が、絵としてそのまま見えるニャ。

📏 3. 共鳴の位置と数 ― 管の長さ・ファッハ・3〜5個
ピヨ猫

共鳴は理論上いくつでもある。でも歌にとって意味を持つのは少数だと書いてある。何が位置を決めるニャ?

ピヨ鳥

位置を決める主因は管の長さピヨ(Titze, 1994)。西洋クラシックにとって聴覚的に大きな意味を持つ共鳴は、周波数が十分に低く・強度が十分にある3つから5つに絞られるピヨ。そして管の長さがセット全体の高さを決めるピヨ:

  • 管が長いほど、共鳴セットの周波数は低く、クラシックで聴覚的に顕著なフォルマントが多くなる。
  • 管が短いほど、共鳴セットは高く・広く間隔をあけ、聴覚的に顕著なフォルマントは少なくなる。
  • 5000 Hz を超える共鳴・スペクトル内容は、CCM(現代商業音楽)の明るく会話的な音色にとくに現れる。

数については、鍵盤の音域内(おおよそ 4200 Hz 以下、母音を分化する約 400〜2100 Hz)で、原書いわくバスは通常5つ、ソプラノは3つ、その他のほとんどは4つの共鳴を持つピヨ。

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表記も整理しておきたい。共鳴の周波数ピークは fR1, fR2, fR3、フォルマントは F1, F2, F3 ニャ。前者が「箱の性質」、後者が「出てきた結果」という、さっきの区別がそのまま記号にも効いているわけだ。

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正確ピヨ。fR は resonance、F は formant ピヨ。そして「位置が主に管の長さで決まり、その結果のフォルマントが全体音色を決める」なら、管の長さは声種=ファッハ(Fach)の決定・維持の重要因子になるピヨ。だからこそ、ピッチごとに喉頭位置をふらつかせて管長を変える歌い手は、音色がまとまらないピヨ:

“Singers who allow their larynx location—and thereby, their tube length—to constantly change with pitch change will achieve a less unified timbre and a less consistent timbral category (sopranos in their extreme high range excepted).” → 喉頭の位置——ひいては管の長さ——をピッチ変化に伴って絶えず変える歌い手は、より統一性に欠ける音色より一貫性に欠ける音色カテゴリーを得ることになるピヨ(極端な高音域のソプラノは例外)。 5章 §共鳴とフォルマントの位置

つまり「管長を音域・母音にわたって安定に保つ」ことが、統一された音色とファッハの一貫性の鍵ピヨ。

🅰️ 4. 母音フォルマント ― 最初の二共鳴と調音
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母音を作るのは主に第一・第二フォルマントだと言われる。なぜ最初の二つの共鳴がそんなに特権的なのニャ?

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二つの理由が重なるからピヨ。第一に、最初の二共鳴は声道形状の摂動(perturbation)に最も敏感に反応する。第二に、ちょうど母音に必要なスペクトル音色の周波数帯をカバーするピヨ。だから最も利用しやすく・同調しやすく、母音の分化と定義に最も責任を持つピヨ。その放射結果が母音フォルマント(vowel formants)と呼ばれるピヨ。

図5.3 各母音の第一・第二フォルマント(母音フォルマント)のスペクトログラフィック・モデル
図5.3 最初の二つの放射フォルマント(母音フォルマント)F₁・F₂の、各母音 [i ɪ e ɛ ɑ ɔ ʊ o u] にわたるスペクトログラフィック・モデル。
🐤 [i]は F₁が最低・F₂が最高、[u]は両方とも低い…と、母音ごとに二点の高さが踊るピヨ。母音の正体はこの二点配置ピヨ。 出典:Kenneth Bozeman, Practical Vocal Acoustics, 図5.3. 原図を切り出して引用(改変なし)ピヨ。
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では、その二共鳴はどう同調するのニャ?舌・顎・唇のどの操作が、どっちの共鳴を動かすのかを具体的に押さえたい。

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原文が操作と効果を対応づけているピヨ。狭窄の位置と唇のが効くピヨ:

“An internal narrowing nearer to the front (nearer the lips) causes a lower first resonance and a higher second resonance. A narrowing nearer the back causes a higher first resonance and a lower second resonance. Lip rounding lowers both resonances, especially the first, and lip spreading raises both resonances, especially the first.” → 前方(唇寄り)での内部狭窄は第一共鳴を低く・第二共鳴を高くするピヨ。後方の狭窄は第一共鳴を高く・第二共鳴を低くするピヨ。唇の丸めは両共鳴を(とくに第一を)下げ、唇の横広げは両共鳴を(とくに第一を)上げるピヨ。 5章 §母音フォルマント

さらに、口の開きと舌背(tongue dorsum)の高さが fR1 の同調を支配し(口を開く/舌背を下げると fR1 上昇)、舌背の口蓋に沿った位置と近さが fR2 を支配するピヨ(前方の舌背・口蓋狭窄で fR2 上昇)。これが言語学でいう調音(articulation)ピヨ。

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ただ、生体力学を一個ずつ意識的に管理するのは現実的じゃない。ボーズマンはそこをどう整理しているニャ?

ピヨ鳥

調音は微視的管理より、表現と聴覚的ターゲット(複合的な上位母音音色・下位母音音色の内容)によって動機づけるほうが単純だ、というのが立場ピヨ。ただし、舌背の高さや口蓋に対する位置の意識は、最良の母音共鳴を発見・近似する初期段階では助けになるピヨ。最終的には表現・意図した音色ターゲット・体性感覚(somatosense)が、より高い特定性でシステムを同調させるピヨ。

🔧 5. 母音修正 ― 能動的修正と受動的移行
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「母音修正(vowel modification)」という語はよく使われる。でもボーズマンはここに「能動的」とわざわざ付ける。何と区別するための形容詞ニャ?

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能動的受動的を切り分けるためピヨ。声道を再形成して最初の二フォルマントを動かすことは、母音カテゴリーの調整・変更に相当し、共鳴を再同調することピヨ。理想は全体音色の統一のため管長を保持しつつ行うこと。これが通常「母音修正」と呼ばれるものピヨ:

“Since this involves intentional reshaping of the vocal tract from habituated speech postures, this might more accurately be called active vowel modification, since vowel timbre also necessarily migrates with pitch change alone, that is, without shape change.” → これは習慣化された会話姿勢からの声道の意図的な再形成を含むので、より正確には能動的母音修正と呼ぶべきかもしれないピヨ。なぜなら母音音色は、形状変化なしに、ピッチ変化のみでも必然的に移行(migrate)するからピヨ。 5章 §母音修正
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整理すると、能動的母音修正=意図的に声道を作り変える受動的母音移行=形は変えずピッチが上がると勝手に音色が移る、ということニャ。後者は「やる」ものではなく「起こる」もの。だから音響的声区変換の話とつながりそうだ。

1️⃣ 6. 第一フォルマントの役割 ― 深み・開閉・音響的声区変換
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第一フォルマントの仕事を一望したい。役割は一つじゃないよね?

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三つあるピヨ。要約するとこうピヨ:

“The first formant contributes to depth, fullness, and roundness of timbre, and determines the openness-closeness dimension of vowels. Furthermore, as we will learn, all acoustic (as distinct from laryngeal) registration events are caused by or related to interactions between the first vocal tract resonance and voice source harmonics moving through it.” → 第一フォルマントは音色の深み・豊かさ・丸みに寄与し、母音の開閉の次元を決めるピヨ。さらに、すべての音響的(喉頭由来とは区別される)声区変換イベントは、第一声道共鳴とそこを通る声源倍音の相互作用によって起こる/関連するピヨ。 5章 §第一フォルマントの役割

①深み、②開閉次元、③音響的声区変換への関与――この三本柱ピヨ。順に見るピヨ。

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①の深みから。第一フォルマントが「温かさ」を司るのは、それが声の最低共鳴だから、という理解でいいニャ?高音域で特に効いてくる注意点があるはず。

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その通りピヨ。第一フォルマントは最低の共鳴だから、低次倍音の強さ=深み・豊かさ(温かさ・丸み)に最も責任を持つピヨ。位置はおおよそ C4〜A5、ふつうト音記号に触れる範囲(D4〜G5)で、[u][o][ɔ] の始まりの音色帯ピヨ。だから第一共鳴は複合母音知覚に [~u]/[~o] 的な「温め」を足すピヨ。ただし大事な条件があるピヨ――十分に共鳴し音色に深みを持つには、第一共鳴ピークの帯域幅内少なくとも一つの声源倍音が近接している必要があり、これはトレブルヴォイスの上声区でとくに重要になるピヨ。

第一共鳴で増幅される倍音が無ければ、音は豊かさを欠き、高次フォルマントの明るさに支配されて薄く・甲高くなるピヨ。なお「第一共鳴ピークが歌う母音に対して低いほど、喉頭咽頭は安定して弛緩し、共鳴器はより収束型」という指標も覚えておくと有用ピヨ。

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②の開閉次元へ。狭母音[i][u]は第一フォルマントが低く、広母音[ɛ][ɔ][ɑ]は高い、という対応ニャ。これは母音アイデンティティそのものとも地続きなんだね。

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地続きピヨ。第一フォルマントが高いほど開き・低いほど狭く聞こえるピヨ。ボーズマンはの比喩を使うピヨ――赤がある幅の周波数を指す一つの色名であるように、母音も幅を持つピヨ。同じ母音の中でも第一フォルマントの同調が高ければ開いて聞こえ、低ければ狭く聞こえるピヨ。そして上げ下げを続けると、あるところで隣の母音に移るピヨ([i]→[ɪ]、[e]→[ɛ] のように。赤がオレンジや紫の色合いへ移るのと同じ)。第一共鳴とフォルマントは口の開きと舌背の下降で上がるけれど、口の開きだけでは限界があり、舌背を下げると第二共鳴も一緒に下がる――この連動が母音修正の難所ピヨ。

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③の音響的声区変換。さっきの「受動的母音移行」がここで効いてくるニャ。倍音が第一共鳴を通過するたびに何が起きるの?

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声源倍音が第一声道共鳴を通過するたびに、音色のある程度の閉鎖/開放と、それに伴う受動的母音修正・移行という可聴効果が生じるピヨ。これが音響的声区変換(acoustic registration)として知覚されるピヨ。やっかいなのは、人はこの倍音:共鳴の交差を本能的に第一共鳴を上げて回避しがちで、これはクラシック音色のためには訓練で除かねばならない生得反応だということピヨ。そして全体の原則はこうピヨ:

“All acoustic registration events have primarily to do with harmonic interactions with the first resonance of the vocal tract.” → すべての音響的声区変換イベントは、主として声道の第一共鳴との倍音の相互作用に関係するピヨ。 5章 §第一共鳴との倍音の相互作用

だから基本母音の第一フォルマント位置と、第一フォルマントセット全体の周波数輪郭を知ることが教育的に不可欠ピヨ(図6.4・付録2へ)。なお脚注によれば、第二共鳴との倍音相互作用も声区変換でしばしば重要だが、それは第一共鳴との相互作用に依存する二次的なもの――ただし重要性で劣るわけではないピヨ。

2️⃣ 7. 第二フォルマントの役割 ― 明瞭さ・前舌後舌・第二フォルマント戦略
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第一・第二の両方が母音音色に関わるのに、なぜ明瞭さ・定義は主に第二フォルマントの仕事とされるニャ?

ピヨ鳥

三つの理由が挙げられているピヨ。①口腔との(誤った)生得的連想、②第二フォルマントは全母音にわたってより一貫して変動する(第一は前舌・後舌で位置が重複する)、③[u][o] 以外の基本母音のスペクトル音色周波数が第二フォルマント域に入ること――ピヨ。第二共鳴のピークは約 F5〜D7、主に G5〜C7 で、所与の声で約10度跨ぐピヨ。これは [ɔ ɑ a æ ɛ e i] の音色帯だから、これらの母音を定義するのが第二共鳴の放射フォルマントピヨ。だから「滑舌のために口腔の形を誇張する」のは本能的だが拙い戦略で、過度の口腔性はキアロスクーロの均衡共鳴と相容れないピヨ。

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次は前舌・後舌。[i]は高い第二フォルマント、[u]は低い。なぜ「近接するフォルマントどうし」が前舌・後舌の知覚を左右するのニャ?

ピヨ鳥

近接フォルマントは互いに強め合うからピヨ。ボーズマンは「Like party animals, when they get together, they make more noise!(パーティー好きと同じで、集まるほど騒がしくなる!)」と比喩するピヨ。だから低い第二フォルマントは第一フォルマントに寄り添って低周波成分を増強し、温かい [~u]/[~o] 的音色を足して「後舌」の知覚を作るピヨ。高い第二フォルマントは歌手のフォルマント群を強化し、明るい [~e]〜[~i] 的成分を増して「前舌」の知覚を作るピヨ。舌の形とも対応し、前方の舌は前方空間を小さくして第二フォルマントを高くするピヨ。

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ここで直感に反する主張が出てくる。「明るい=前、暗い=後ろ」は誰でも感じる。でもそれを逆転させろという。なぜニャ?

ピヨ鳥

「明るい=前/暗い=後ろ」は普遍的で生得的な知覚だけど、それは音色の対立を不満足な二者択一の極端へ追いやるピヨ。最適な発声機能では、前舌・後舌の同調は位置的体性感覚(locational somatosense)=「配置」感覚に対応しないピヨ:

“Counterintuitively, the front-back tuning of vowels does not correspond to their locational somatosense (“placement” percept or sensation of vibrational locus) in best vocal function. Resonance tuning is more effectively balanced by conceptually reversing this orientation to sensing bright tone colors in back and dark in front.” → 直感に反して、母音の前舌・後舌の同調は最適な発声機能では位置的体性感覚(「配置」の知覚=振動中心の感覚)に対応しないピヨ。共鳴の同調は、この向きを概念的に逆転して「明るい音色を後ろに、暗い音色を前に」感じることで、より効果的にバランスがとれるピヨ。 5章 §母音の前舌・後舌の区分

感覚的なラベルを反転させることで、明暗の二項対立に振り回されずに均衡を取りにいく――という体性感覚の使い方ピヨ。

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最後に第二フォルマント戦略。テノールやバリトンの高音で第二フォルマントを使う、というのは具体的にどういう操作ニャ?

ピヨ鳥

声が「ターニングオーバー」した後の第二の鳴り口を確保する戦略ピヨ:

“When the second harmonic of the voice source loses power as it surpasses the frequency peak of the first resonance—that is, when the voice “turns over” or “closes”—professional tenors and baritones will often modify resonances in order to boost the second formant by tuning the second resonance to activate an available, higher source harmonic in order to achieve an especially ringing top.” → 声源の第2倍音が第一共鳴のピークを超えてパワーを失うとき――すなわち声が「ターニングオーバー」または「クローズ」するとき――プロのテノールやバリトンはしばしば、利用可能なより高い声源倍音に第二共鳴を同調させて第二フォルマントを増強し、とくに鳴りのある高音を得るピヨ(Donald Miller 2008)。 5章 §第二フォルマント戦略

同じ戦略は、一部のクラシック・トレブルヴォイスの中声区や、ミックスベルトの音色をより高く拡張するトレブルヴォイスのベルターにも使われるピヨ(後述:第二フォルマント戦略再考、p. 54)。

💍 8. 歌手のフォルマント群(SFC)― 鳴りは深みに依存する
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いよいよ歌手のフォルマント群(SFC)ニャ。まず定義と、なぜそれがオーケストラ越しに声を届ける力になるのかを正確に。

ピヨ鳥

第三以上の高い共鳴(fR3≦)が、特定の形状条件のもとで放射フォルマントの群(cluster)を作るピヨ。これが SFC ピヨ:

“This forms the so-called singer’s formant cluster (SFC), that ringing quality associated with professional classical singers that gives them carrying power over orchestras.” → これがいわゆる歌手のフォルマント群(SFC)を形成するピヨ。プロのクラシック歌手に特有のあの鳴りの質で、オーケストラを超えて声を届ける力を与えるピヨ(Sundberg 1974; Titze and Story 1997)。 5章 §歌手のフォルマント群(SFC)

SFC はピアノ最上オクターブ(C7〜C8)の中央付近(2300〜3500 Hz)に位置するピヨ。なぜそこか――人間の外耳道もまた四分の一波長共鳴器で、一次共鳴が 2000〜4000 Hz、健康な聴覚が強度に最も敏感な帯域だからピヨ。だからこの帯のエネルギーは鼓膜への途中で強い共鳴増幅を受けるピヨ。逆に歌唱ピッチ自体が十分高くなると、声の音量は SFC への依存を減らし、第一共鳴に乗る基本周波数の強さ(ウープ音色)に頼るようになる――だからトレブルの上声区では SFC の重要性は下がるピヨ。

ピヨ猫

SFC の位置も管の長さで決まるなら、これもファッハに直結するニャ。

ピヨ鳥

直結ピヨ。管が長いほど SFC は低く、結果の声種も低い。短いほど SFC は高く、声種も高いピヨ。だから管長を音域・母音にわたって比較的安定に保つことが、西洋クラシックにおける音色と知覚されるファッハの一貫性を統一・安定させる鍵ピヨ(CCM ではやや関心が薄いピヨ)。

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ここが一番効く論点だと思う。SFC は「鳴り」だけを作れば手に入るものではない、と本書は強く言う。なぜ深みが条件になるのニャ?

ピヨ鳥

形成条件をたどると、深みと鳴りが同じ形状から同時に生まれるからピヨ。研究によれば、SFC の形成には咽頭の面積と喉頭上管(epilarynx)出口の間に6対1の差が要るピヨ(Sundberg 1974; Titze and Story 1997)。この条件が満たされるのは、喉頭が快適に低く・喉頭咽頭が弛緩して開き・披裂喉頭蓋出口が狭められている場合に限るピヨ。まさにその条件収束型共鳴器と比較的低い第一フォルマントを生み、音色の深みを確保する――つまり SFC の一貫性は深みに依存するピヨ。

“That is to say, classic SFC is not just about achieving “ring,” but actually only occurs when accompanied by timbral depth, creating the balanced resonance of chiaroscuro.” → すなわち、クラシックな SFC は単に「鳴り」を達成することではなく、実際には音色の深みを伴って初めて生じ、キアロスクーロの均衡した共鳴を作るのだピヨ。 5章 §SFCと共鳴のバランスおよび相互作用の関係

だから「明るくて高次フォルマントが強い」だけではクラシックな SFC とは言えないピヨ。高次フォルマントが深みによって束ねられていて初めて SFC ピヨ。この状態は音響リアクタンス慣性の相互作用を生み、より少ない呼気圧・声門抵抗でより大きな全体音響パワーを生みうるピヨ。

ピヨ猫

では梨状陥凹(piriform sinuses)はどう絡むニャ?SFC を際立たせる装置だと書いてあった。

ピヨ鳥

梨状陥凹は喉頭上管の側方に分岐する空間で、4000〜6000 Hz 帯域の共鳴を打ち消す効果を持ち、それによって SFC を際立たせ、すぐ上にありうるフォルマントを抑制するピヨ(Delvaux and Howard 2014)。ただし喉頭咽頭を狭めると梨状陥凹が閉じ、喉頭上管を「抱きしめ」て、フォルマントを群化せずに広帯域の高周波部分音を増強するピヨ。これは補完的な深みを伴わない明るい音色を望むときの選択肢で、いわゆる咽頭声(pharyngeal voice)voce di strega(魔女の声)を作る方法ピヨ。SFC(深み込み)とは方向性が違う戦略だと押さえておくピヨ。

🎹 9. 鍵盤上のフォルマントと [i] ― 対数スケールが見せる「谷」
ピヨ猫

最後の節は見せ方の話ニャ。パワースペクトルの周波数軸を、ピアノ鍵盤のように対数に取り直すと何が変わるの?

ピヨ鳥

音楽家にとって共鳴とフォルマントの相対位置が把握しやすくなるピヨ。同じ母音 [i] を、線形(図5.4)と対数=鍵盤対応(図5.5)で並べると、[i] の特徴が一目で出るピヨ:

“The high location of the second resonance puts all resonances other than the first near or in the top octave of the piano, leaving a large “valley” between the first and second formants of the [i].” → 第二共鳴の高い位置のため、第一以外のすべての共鳴がピアノ最上オクターブ付近またはその中に入り、[i] の第一と第二フォルマントの間に大きな「谷」が残るピヨ。 5章 §鍵盤に対するフォルマント
図5.5 母音[i]の声道パワースペクトル。周波数軸を鍵盤に合わせ対数化したもの。第一・第二フォルマント間に大きな谷
図5.5 母音 [i] の声道パワースペクトル。周波数軸を鍵盤に合わせて対数化したもの。第一フォルマントと、最上オクターブ付近に固まる高次フォルマント群の間に大きな「谷」が見える。
🐤 F₁がぽつんと低く、F₂以上が右端の鍵盤上部に密集する。この「谷」が [i] の明るさの正体ピヨ。 出典:Kenneth Bozeman, Practical Vocal Acoustics, 図5.5. 原図を切り出して引用(改変なし)ピヨ。
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その「谷」は明るさを説明する一方で、リスクも示しているはず。第一フォルマントで倍音が拾われていないと、どうなるニャ?

ピヨ鳥

谷は明るさと同時に薄さの危険でもあるピヨ。第一フォルマントで倍音が共鳴されていなければ、[i] は薄くなりうるピヨ。けれど条件が揃えば [i] は最良の音色バランスになりうるピヨ:

“With the lowest first formant and the highest second formant of all vowels, a well produced [i] can have excellent chiaroscuro timbral balance.” → 全母音中で最も低い第一フォルマントと最も高い第二フォルマントを持つため、よく発声された [i] は、キアロスクーロの優れた音色バランスを持ちうるピヨ。 5章 §鍵盤に対するフォルマント

まとめるピヨ。第5章は、(1)声道を軟壁の四分の一波長共鳴器として捉え、(2)共鳴(ポテンシャル)とフォルマント(実現)を厳密に分け、(3)位置と数を管長=ファッハに結び、(4)第一フォルマントに深み・開閉・音響的声区変換を、(5)第二フォルマントに明瞭さ・前舌後舌・第二フォルマント戦略を割り当て、(6)SFCを「深みに依存する鳴り=キアロスクーロ」として定義し直す――という共鳴論の中核設計図ピヨ。次の第6章では、この第一共鳴と倍音の相互作用を動きとして精読していくピヨ。いっしょに続けようピヨ。

この章の芯:共鳴は「音を通せるポテンシャル」、フォルマントは「実際に出た結果」。低音域では一致し、高音域では乖離する。第一フォルマントが深みと声区を、第二フォルマントが明瞭さと前舌後舌を司り、SFC(歌手のフォルマント群)は単なる鳴りではなく深みに依存するキアロスクーロとして初めて成立する――それが第5章の骨格ピヨ。