PRACTICAL VOCAL ACOUSTICS ・ ピヨ版
Practical Vocal Acoustics(実践的声楽音響学)/ Kenneth Bozeman 著
ピヨ鳥せんせい、第3章「The Voice Source」って、ひとことで言うと何の話ニャ?
この章は声帯がつくる「おおもとの音(音源)」を、声道(フィルタ)から切り離して単独で見る章ピヨ。要点はこの5つピヨ:
まず「音源(voice source)」って、正確には何を指すニャ?
いい入り口ピヨ。音源とは声帯の振動によって、声道の空気柱に励起される“複雑な波形”のことピヨ。そしてノイズの少ない発声では、それは基本周波数の倍音という部分集合に分解できるピヨ。
“The complex waveform excited in the air column of the vocal tract by the oscillation of the vocal folds is called the voice source.” → 声帯の振動によって声道の空気柱に励起される複雑な波形を「音源(ヴォイス・ソース)」と呼ぶピヨ。 p.11
大事なのは、倍音は必ず歌っているピッチの基本周波数(第1倍音)の整数倍に限られるという点ピヨ。作曲家が指定したり歌い手が選んだピッチが、すべての倍音の親になるピヨ。
クラシックの声は「揺れてる」けど、あれも音源の話ニャ?
そうピヨ。西洋クラシックの典型的な響きでは、これらの周波数が目標のピッチの上下を毎秒およそ6回規則的に揺れていて、それがヴィブラートピヨ。そして発声がきれい(クリーン)であるほど倍音対雑音比(HNR)が高い=非周期的なノイズが少ないピヨ。クラシックの理想では、知覚できるノイズはほぼゼロピヨ。
じゃあ声道を取っ払って、声帯の音だけを宙に放り出したら、すごくキレイな音が聞けるってことニャ⁉ 喉頭ソロ・コンサート、開催ニャ!
ピヨピヨピヨヨヨヨ、チケットは売れないピヨ!本にもこう書いてあるピヨ ― 共鳴を取り去った、ピッチのある「喉頭ブザー(laryngeal buzz)」は驚くほど魅力に欠けるピヨ。
“An unresonated, pitched ‘laryngeal buzz’ (as might be generated by an excised larynx) is surprisingly unattractive …” → 共鳴のかかっていない、ピッチのある「喉頭ブザー」(摘出した喉頭でつくれるような音)は、驚くほど魅力に欠けるピヨ。 p.12
もしその喉頭の音を宙に放したら(リップ・ブルルみたいに)、第1倍音=基本周波数を頂点に、高くなるほど力が弱まる「roll-off(減衰)」を伴った倍音の集まりになるピヨ。その減衰の割合が、次に見るスペクトル傾斜ピヨ。
そもそも素朴な疑問ニャ。声って、ギターの弦みたいに声帯が分割して鳴ってるんじゃないニャ?倍音はどうやって生まれるニャ?
そこが弦楽器との大きな違いピヨ!弦は長さが分割されて、多くの倍音に近い周波数で同時に振動するピヨ。でも声門は「基本周波数ひとつ」でしか開閉していないピヨ。
“Unlike stringed instruments … the glottal opening/closing event only oscillates at a fundamental frequency.” → 弦楽器とちがって、声門の開閉という出来事は「基本周波数ひとつ」でしか振動していないピヨ。 p.12
その開閉が空気の流れを変調して、直流(DC)の流れを交流(AC)の圧力波=圧縮と希薄のくり返しに変えるピヨ。ここがミソピヨ。
開閉ひとつなのに、なんでたくさんの倍音が出るニャ?
カギは「閉じ方の鋭さ」ピヨ。もし声門が閉じずに、流れをサイン波のように対称的に変調するだけなら、出てくるのは基本周波数ただ1つピヨ。ところが実際は、声門が開→ピーク流量→急で鋭い流量の落ち込み→閉鎖と、非対称に動くピヨ。
“That sharp declination in flow, plus the absence of flow at glottal closure, cause a sudden pressure rarefaction, a kind of abrupt ‘jerking back,’ creating the strongest part of the acoustic signal.” → 流量の鋭い落ち込みと、閉鎖時に流れが止まることが、急な「引き戻し」のような圧力の希薄をつくり、これが音響信号のいちばん強い部分になるピヨ。 p.13
この非対称さを最大流量減衰率(maximum flow declination rate)と呼ぶピヨ。鋭く閉じるほど、高い周波数まで一気に“掃く”ように励起できるピヨ。
じゃあ、励起された周波数の中で、どれが生き残って倍音になるニャ?
「次の声門閉鎖のタイミングに同調できた周波数だけ」ピヨ。第1倍音は毎回のタイミングに合うから強められるピヨ。第2倍音は2回に1回、第3倍音は3回に1回…と、上の倍音ほど“応援”される回数が減るピヨ。だから高い倍音ほど弱まる=スペクトル傾斜が生まれるピヨ。
逆に、基本周波数の整数倍でない周波数は、戻ってくる位相が都合の悪い瞬間に来てしまうから打ち消されて消えるピヨ。きれいに整数倍だけが残る理由はこれピヨ。
音源の倍音の「数」と「強さ」って、何で決まるニャ?
本では4つの要因にまとめているピヨ:
“… are primarily determined by four factors: mode of phonation, laryngeal register, intensity, and fundamental frequency.” → 主に4つの要因で決まるピヨ:発声モード、喉頭レジスター、強さ(intensity)、基本周波数ピヨ。 p.13
これから1つずつ見ていくピヨ。この4つは全部、最終的にスペクトル傾斜とラフネスに効いてくるピヨ。
①の「発声モード」から。これは何と何の関係ニャ?
3つの関係ピヨ:声門をはさんだ圧力差(息の圧)・空気の流れ(airflow)・声門の抵抗(valve resistance)ピヨ。このうち能動的に操れるのは息の圧と声門の抵抗で、流れはその結果として決まるピヨ。
声門の下(気管側)の圧を、声門の上(声道側)の平均圧より高くする ― この差を声門通過圧差(transglottal pressure difference)=ふだんは単に「息の圧」と呼ぶピヨ。式にするとこうピヨ:
“… a phonation equation: Breath pressure/airflow = glottal resistance.” → 発声の式:息の圧 ÷ 空気の流れ = 声門抵抗ピヨ。 p.14
大事な健康ポイントピヨ ― 圧差が低いほど声帯の衝突力が小さくて健全ピヨ。高い圧差と衝突力が続くと組織を痛めるピヨ。あとで「うまい共鳴チューニングが声道の“背圧”を上げて圧差を下げてくれる」と学ぶピヨ。
バランスが崩れると、音色はどう変わるニャ?
崩れ方は2方向ピヨ ― 流れが多すぎるか、抵抗が多すぎるかピヨ。本のたとえ(式は実測値でなく「理想を1」とした象徴的な値)で並べるとこうピヨ:
強い基本周波数には各サイクルで十分な開きが要り、強い高倍音には完全な閉鎖+鋭い閉じが要るピヨ。両方そろうのがフロー発声ピヨ。やさしく完全な閉鎖(うまい coup de glotte)から始めると出やすいピヨ。
②の「喉頭レジスター」って、結局なんの調整ニャ?
ピッチを作るための声帯そのものの筋的な調整ピヨ。主役は2つの筋肉ピヨ:甲状披裂筋(TA)=声帯を短く厚くする筋(声帯の本体)と、輪状甲状筋(CT)=声帯を伸ばして薄くする筋ピヨ。
胸声と頭声で、音源の波の形まで変わるニャ?
変わるピヨ。厚い声帯(M1=振動メカニズム1)は垂直位相差(接触に深さがあり、下縁から上縁へ波打つ)を持ち、より複雑な波形 → 浅い傾斜・多く強い高倍音・大きな聴覚的ラフネス(ザラつき) → 本質的にブラッシー(金管的)ピヨ。
薄い声帯(M2=振動メカニズム2)は気流をより単純に・なだらかに断ち切るから、よりサイン波的で強い1f₀・少なく弱い高倍音・急な傾斜・最小のラフネス → なめらかで笛のようピヨ。
“This thicker vocal fold shape is increasingly referred to as vibrational mechanism one (M1). … This thinner vocal fold shape is referred to as vibrational mechanism two (M2).” → 厚い声帯の形を「振動メカニズム1(M1)」、薄い声帯の形を「振動メカニズム2(M2)」と呼ぶようになってきているピヨ。 p.15–16
③の「強さ」と④の「基本周波数」もサクッと知りたいニャ。
強さ(intensity)はシンプルピヨ ― 大きい発声ほど高倍音が多く強い/静かな発声ほど傾斜が急で高倍音が少なく弱いピヨ。
基本周波数(f₀=ほぼピッチの知覚)も大事ピヨ:
この「可聴域(だいたい鍵盤内、約4200Hz以下)に何本の倍音があるか」が、共鳴の戦略や母音の聞き分け(明瞭度)に大きく効くピヨ(Figure 3.2)。
図3.2に出てくる「絶対スペクトラル・トーンカラー」って、なんだか難しそうニャ。
大丈夫、たとえがあるピヨ。心理音響学(psychoacoustics)の知見で、Ian Howell が声楽教育に持ち込んだ考えピヨ。目と脳が「光の周波数」を“色”として処理するように、耳と脳は「音の周波数」を、暗→明の連続と、母音のような音色として処理するというものピヨ。
“Frequencies below C5 are low, dark, and [~u]-like in spectral tone color. Frequencies above C7 are high, bright and [~i]-like in spectral tone color.” → C5より下の周波数は低く暗く、音色は [~u](ウ)に近いピヨ。C7より上は高く明るく、音色は [~i](イ)に近いピヨ。 p.17
つまりどの周波数にも“それ固有の音色”があるピヨ。C5〜C7はその中間ピヨ。これは音色・母音形成・音域や声区をまたいだ母音の移ろい(modification)を、予測的な精度で説明できる、と注目されているピヨ。
「necessary roughness(必要な粗さ)」って気になるニャ。粗さって、悪いものじゃないニャ?
これも Howell の知見ピヨ。ピッチは対数的だから、高い倍音ほど間隔が詰まっていくピヨ。最初の5本の倍音はよく離れていて、純粋でなめらかなピッチ感を支えるピヨ。ところが第6倍音(6f₀)あたりから、隣りの倍音が短3度以内に近づくピヨ。
“Harmonics in close proximity introduce a beating ‘roughness’ to human perception; the closer together, the rougher the percept.” → 近接した倍音は、うなりのような「粗さ」を知覚にもたらすピヨ。近いほど粗く感じるピヨ。 p.17
さらに第8倍音より上になると、粗さが強まるだけでなく、基本周波数(ピッチ感)から知覚的に独立して、ピッチと並んでブザーっぽい/リンギーな質として存在するようになるピヨ。
その「粗さ」って、声帯がうまく閉じてない時の“ガサガサ”と同じニャ?
そこが超大事な区別ピヨ!本は念押ししているピヨ ― この心理音響的な粗さは近接した“倍音(周期的)”が生むブザー/シズル感で、非対称振動・仮声帯振動・故意の歪み・病的なノイズが生む“非周期的”な粗さとは別物ピヨ。
しかも、うまく閉じているほど閉鎖期が長くなり、より高く密な倍音が出て粗さは増すピヨ。だからこそ「必要なラフネス(necessary roughness)」ピヨ ― 健全な閉鎖の相棒ピヨ。音域をまたいで、低音はブザーっぽく(胸声寄り)、高音はなめらか(頭声寄り)に移っていくピヨ。
ちなみに、声門弁が音色に与える主な貢献はスペクトル傾斜を通じてピヨ。急な傾斜=温かく丸くなめらか=頭声的(低い第1フォルマントの音色)、浅い傾斜=ブラッシーで粗い=胸声的(第2以上のフォルマントの音色)ピヨ。
結局、音源(ソース)の話のいちばんの“持ち帰り”は何ニャ?
音源は、外に放たれる複雑な波形を組み立てる「原材料」だということピヨ。共鳴器(声道)は音を作らない ― あくまで音源のエネルギーを整えて強めるか/強めないかだけピヨ。
“The resonator (vocal tract) does not make sound; it shapes and reinforces, or not, acoustic energy introduced into it via the excitation of abrupt glottal closure.” → 共鳴器(声道)は音を作らないピヨ。鋭い声門閉鎖の励起で送り込まれた音響エネルギーを、整えて強める(か強めない)だけピヨ。 p.18
だから歌い手にはまず十分に頑丈な波形=そのピッチ・強弱・表現にふさわしい倍音内容と傾斜を、無理なく(freely)得ることが要るピヨ。それを支えるのがフロー発声=きれいで完全な、しっかりだけどやさしい声門閉鎖ピヨ。
最後に、声帯(声門弁)の「仕事」を整理してほしいニャ。
声門弁の仕事は2つピヨ:
“The vocal folds have two primary jobs in phonation: glottal resistance … and shaping for pitch …” → 声帯の主な仕事は2つピヨ:①声門抵抗(圧差と流れを管理する閉鎖の強さ)と、②ピッチ形成(長さ・質量・厚み・張りを調整して音域の全ピッチを作る)ピヨ。 p.19
ここにジレンマがあるピヨ ― ①(圧への抵抗)に力を使うほど、②(ピッチ形成)の柔軟さが減るピヨ。だから圧・流れ・抵抗のちょうどいいバランスが、効率・音域・声の健康のどれにも欠かせないピヨ。
うれしいことに、うまい声道の音響チューニングが声門上の圧を上げてくれて、強い発声に要る高い気管圧を相殺し、結果として声門通過圧差を快適に低く保てるピヨ ― これが次章以降の「共鳴」の話につながるピヨ。よくここまで来たピヨ、この調子でいこうピヨ!